日本でハリウッドVFXを制作! 「経産省アイディアボックス」 結果:  
●まとめエントリはこちら ●FAQ ●お問い合わせは左のメールフォームから

2014年9月29日月曜日

北田モデリング・チャレンジ サイコロ編


<前置き>
ダブルネガティブでご活躍のモデラー、北田さんによるモデリングチャレンジ「サイコロ編」。
今回これに挑戦させて頂きました。
この課題はすでに2年以上前にだされたものですが、なぜ今更ながらのチャレンジなのか?
実は、ここ2年ほどの間にモデラーとしての仕事をいくつか経験する中で、モデリングに関する知識の無さと、要領の悪さが致命的だと実感したからです。

時間をかければある程度の仕事はこなせるのですが、それは素人のやり方で仕事として好きなだけ時間掛けていては、いまの時代、自分を殺すか会社を殺してしまいますw
殺すってのは文字通り、睡眠時間を削り健康を害することになることでもあり、固定給の場合、時間当たりの単価は非常に悪い物になります。
これらは両方ともフリーランスとしては深刻な問題で、致命的というのはそういう意味です。
会社で仕事をしているとしても、やはり同じ結果を得るには人件費がかかるということになります。
同じレベルの物を作れるなら、早くできても単価が高い人間か、時間がかかるけど安い人間かと言うことになります。
さきほど「今の時代」と書きましたが、CG業界は単価が安くても質の良い結果をだせる人が増えてきています。
そんな中で、競争力を保つことができなければ職自体が得られないって事にもなりかねませんね。


<課題をやる上での目的>
何かを学ぶときには、その必要性を感じているときに学ぶのは一番、多くの事を吸収できると思います。
実はそういう状態になるまで待ってからやってみようと思っていたのもあります。

今回、目的としていたのはプロのモデラーがどういったことに気を配ってやっているのかを、見いだし、心に植え付けること。
これ言葉で書くと簡単ですが「記憶」しようとすると忘れます、実際何度も聞いてますが出来てません(汗)、この課題を終えた後、モデリングしようとするときには、いつもそれをこころがけて「いる」ようになるのが、第一の目的でした。

とくにどういった順番で作っていくのかという、設計図的な部分。
モデリングはこの部分で、時間のかかりかたがかなり違ってくるように思います。
いわば素人からの脱皮への足がかりをつかむことが目的です。

まぁさすがに、すでにモデリングの経験もあるので、エッジループとか、その他のツールの使い方に関してはさほど問題はありません。
今回この課題にチャレンジしたのは別にサイコロが作れないからとか作りたいとかそういうものではありません、その作業の裏にある思想をたどることができるからです。
サイコロはシンプルな形状なので、その思想が、わかりやすいというのもあります。

単に同じ物作るだけならもっと楽しい物がたくさんあります(笑)



<How>
なにかを心に植え付けるには、やはり感動というか強い実感があると効果的です。
「あぁそうか!」とか「おおっ!」と思わず声に出てしまうような経験をするとその事柄はなかなか忘れないですよね。

このサイコロの課題はすでに北田さんがブログ上で解答を後悔しており、そこで注意するべき事、重要な事など多くのノウハウが公開されています。

それを読むだけでも「おおっ」って思うこともあるのですが、概念的な説明ってのは具体性を伴わないとその時感動しても、意外とすぐに忘れてしまいます。
実践的なことは行動を伴わないで文章だけで読むとそれもまた忘れてしまいがちです。
全てを忘れてしまうことはないとは思いますが、少なくとも応用性が限定されたものになってしまいます。


この課題の解答では、モデリングのスキル、サイコロを作るための手順を説明しているだけではなく、「モデリングとはどのような作業なのか?」という根本的な部分まで説明されています。

読むときに、その部分をより吸収するためにはやはり同レベルの問題意識を持った上で読む事が必要となってきます。


具体的には、まず自らの(できるかぎり最大限の)力でモデリングしてみる。
そのモデリングの過程について、細かなデータをとっておく。
そしてそれについて、北田さんの作業と比較して無駄な点、効率化できる点などを洗い出す。

これにより自分の力の及ぶ範囲、その自分の意識を超えた所にある工夫に気がつくことができると考えました。
そのため、ブログにある説明や、ワイヤフレームはほとんど見ないで、まず今の自分ならどのように作っていくかを考えて作業を進めてみました。

ちなみに形状の細かな違いは、何をリファレンスにするのかによってことなるので角の丸みとかベベルの具合とか穴の大きさとかは、Googleで見つけたサイコロの画像を参考にしており、北田さんの見本モデルとは異なります。



<作業>
自分がとったアプローチは以下の順序です。
1)穴と面とのつながり、ベベルの具合を確認しながらベースとなる穴を一つ作る
2)各面を作成(穴は「1」を流用)
3)各面の相互接続のトポロジを修正する(必要に応じて各面のトポロジを修正する)


モデリングは1の目から開始して以下の順序です。
1→4→6→5→3→2

「1の目」を選んだのは大きいので作りやすい、そしてデュプリケートしていけば増やすのが簡単だと思ったからです。
もう一つの理由は、シンプルなので面の分割をそれほど増やさなくて良い、すなわちローレゾに保てるということです。
(この時点で、出来る限りローレゾにするのが一番良い事だと考えていました)

穴の部分は六角形と八角形を試してみましたが、穴の形の良い八角形にすることにしました。
まずエッジを落としたキューブを作成し、そこに穴をつくりました。
これでできた「1の目」の面が下図になります。
ここまでの作業時間は、試行錯誤の作り直しも含めて40分ぐらい。
(画像はクリックで拡大)

この穴を他の面を作るのに流用して作ったのが以下のものになります。
各面のサイズが微妙に違うのはスクリーンキャプチャの問題で実際は同じサイズです。
また縮小したため一部の線が消えてしまっています。

面と面とのつながりは、各面のトポロジがどのように変化していくのか推測が出来なかったのと、
そのあたりのつながりを考えながら作業していると、時間がかかりすぎるので各面独立して最初に作りあとからトポロジの整合性をとることにしました。
この時点では、各面のトポロジは独立しており他面との接続部分は考えないことにしています。
作業時間は一つの面につき平均15分です。
(画像はクリックで拡大)

「6の目」までは、トポロジーも複雑ではなく、面の分割を増やすだけで対応可能だったので、ささっと片付けた感じ。
「6の目」の後に「5の目」をやっているのは、5を片付ければ3と2の目はそこからすぐに作る事ができるから。

各面ができてから、相互の面の接する部分のトポロジーをつなげていく。
6と5、1と5、5と2、1と2、1と4、1と3、6と3

その過程でエッジの数が合わず多角形になっている事があり、修正する必要がありました。
 れで作成した自分のサイコロのトポロジーが下図です。
この修正作業に要した時間は1時間20分
(画像はクリックで拡大)

「1の目」は複雑になり、2や5の目も上下でエッジの数が異なっています。
自分でやってて、「これじゃない」感を感じてます(苦笑)。
ここまでの合計作業時間は3時間20分
全てのポリゴンはクオッドです。


<まずは自分の作業を反省してみる>
まずは一つの面を作成後、もう一度トポロジを変更するためにいろいろとポリゴンの流れを変えています。
いわば作り直しに近いことをしているわけです。
仕事をする上で結果を得るための作業を、2度別のやり方で繰り返すのは効率が良いとは言えません。

もう一つは、行き当たりばったりな面。
最初から最後まできちんとした計画があってやっているとは言えません。
むしろどうやってよいのか分からないので、とりあえず手を付けて問題があったら対処するという米国式ですw



<答え合わせ>
いよいよ答え合わせです。
北田さんもおっしゃっているように、モデリングにはこれといって正解があるわけではないのですが、より効率的、より効果的であれば、良いというのは間違いないことです。
そういう点では、北田さんの見本回答は勉強になる事がたくさんあります。


※ここからはネタバレになるので、この課題にチャレンジしようと思っている方は、先にチャレンジを終えてから読んだほうがよいかもしれません。
その場合は、この「<答え合わせ>」はとばして「<終わりに>」へ進んでください。


この問題の答えは北田さんのブログに詳細が書かれています。


北田さんの回答を読んでみて気がついたのは、最初のステップから大きく違うという点です。
北田さんは「1の目」は個別に考え、他の目はすべて共通点が多いので「5の目」から発展させて作ることができると考えています。


自分は工業製品や、印刷関係の仕事をしていた関係か、かなり細かな事にこだわる傾向があります。
たとえばサイコロの目などだと1以外の目はサイズ的に同じだと判断するかもしれませんが、
その目で見たときにバランスが取れるようにサイズは一様ではないというふうに考えてしまいます。
たとえばロゴなどのの文字間隔は一様ではなく、間隔が同じように見えるように微調整しますが、そんな間隔です。
工業製品は、会社によってアプローチが違うので一様である場合と、一様でない場合があり得ます。
ただ自分の場合はこの細かなこだわりが、実質的に目に見える効果としてあらわれないこともあり、結局作業を複雑にしてしまうだけで終わることがあります。
今回もそのパターンでした...orz

まぁこの辺りは最初にどう捉えるかという事でもありますが、たとえそういった微妙な調整が必要だとしても先に北田さんのやり方で作って後で調整したほうが圧倒的に早くて楽です。


そして下図は北田さんのブログから許可頂いて転載させていただいたものですが、(北田さんありがとうございます)トポロジーがビックリするほど綺麗。
複雑な要素はありません。

次に気がついたことは、北田さんは一つの面を作るのでも、以下に少ない手順で作れるかを絶えず考えています。
たとえば「5の面」ですが自分だとそれぞれの穴をデュプリケートして5回同じような作業を繰り返して作ってしまいます。
でも北田さんのやり方では面の1/4を作りそれをミラーリングで一気に仕上げてしまう。
「1の面」だと自分だと一気に全体を作ろうとします、北田さんはこれも1/4を作りミラーリングで仕上げています。
一面だけ作るなら、そんなに時間差はないかもしれませんが、こういう考え方が積もり積もると大きな時間差になるだろうなというのは容易に想像がつきます。


北田さんも述べているようにこれがただ一つの正解というわけではないとお思いますが、自分の目的には十分すぎるほどの回答例でした。

「どうすれば早く、綺麗に作れるのか?それを常に考えることが重要です。」とおっしゃっていますが、このモデリングチャレンジで、それを実際にどのように考えて行くのか、その思考過程の違いを見ることが出来ました。

自分の場合は、思考停止して、行き当たりばったりになってしまっています。
北田さんの場合はほぼ最終的な状態までのステップが、見える状態で作業がすすめられています。

気付いたからと言ってすぐに、同じレベル出作業が出来るようになるわけではないのですが、この辺りの思考の違いってのをはっきりと自覚することができたのは、自分にとっても大きな収穫でした。

ちなみにこの解答のとおりに自分でもやってみたところ作業時間は大幅に短縮して40分でした。
3時間20分が40分。五分の一になりました。

トポロジの違いは下図をみれば一目瞭然です。
同じ左上のポリゴンからのポリゴンの流れを選択してみると北田さんのは横一列。
自分のは迷走していますw

(画像はクリックで拡大)

この理由の一つは穴の底部分の形状が影響しています。小さな所ですが、そういうところも大きく影響をしていると言うことが分かりますね。

自分のやり方(図の右側)を見ると「5の目」の中心は北田さんと同じですが、他の四つは斜めになっていますね。統一性にも掛けています。


<終わりに>
答えを見て、正直なんだそんな簡単なやり方で良いのか?と思いましたが、全体の複雑性をいかにシンプルにして、少ない手順でできるようにするのかという視点は自分にかけていたものだと思います。

自分のやり方は、アナログ的思考に裏付けされていますが、デジタルのツールの利点を生かし切れていません。

アナログの連続し、かつランダムなデータをサンプリングし、規則性のある情報にまとめていくというのはプログラミング的な思考でもあります。
まさかモデリングで、そこまで考えてやらなくてはいけないとは思いませんでした。

そしてこの弱点は、先に北田さんの回答を見てから真似していただけでは、はっきりと意識することなしに通り過ぎていたかも知れません。