日本でハリウッドVFXを制作! 「経産省アイディアボックス」 結果:  
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2010年1月2日土曜日

税優遇措置とは(4): 日本でVFX、実現に向けて

ハリウッドでは、アート的な才能は重視、そして評価されます。
絵画、彫刻、2Dアニメーションといった才能があれば、直接それが映画の表舞台にでてくるのではなくても、間接的にでも必要と考えられており、アーティストの仕事の節々にその影響があらわれてくると考えられていると思います。

この面でも、日本は「わび、さび」といった独自の芸術感覚があり、それはジャポニズムを始め、数多くの影響を世界に与えています。
そして、おそらくその精神は漫画やアニメーションにも引き継がれていると思います。

それを対等に勝負できるところまで引き上げる(もしくは研ぎ澄ます)必要はあると思いますが、自分たちが世界に影響を与える文化とそのセンスを日常でも感じられる環境にいると言うことは忘れるべきではないと思います。

またそれを導くことが出来る人はやはり、アメリカをはじめとするプロダクションで実際に仕事をしてきた「日本人」経験者ではないかと思います。
日本人の感覚は日本人でなくては理解できないことが多いからです。


さて、実際に、これまでに述べたようなことを背景として、会社を興すとすれば、元が取れるのかどうかがカギとなります。
元が取れなければ、たとえ設立できたとしても、すぐにつぶれてしまいます。
それには、より具体的な計算が必要となってきます。

残念ながら、そのあたりの知識は現在持ち合わせていないので、これからの課題となります。

しかし、現時点でも、まだ推測できることはあると思いますので、今回はその話です。


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まずVFXの仕事というのは、半分は映画産業の性質を持ち、半分はITの性質を持っていると思います。
映画の宣伝文句や評論でも「VFX」ではなく、「CG」と表現されるようにIT(コンピュータ)と密接に関係しています。


営業方法や生み出される物は違うかもしれませんが、IT企業といっても過言ではないかもしれません。
実際にアウトソーシング先もその他のIT企業と同じようにインドや中国といった国が幅をきかせてきています。
イギリスやカナダが成功しているのは、そこに映画制作のノウハウをもち、ハリウッド映画の性質をよく知っているからでしょう。



ではカナダがなぜ成功しているのか、そのあたりをVFXから視点を変え、「IT」にフォーカスを当ててみたいと思います。

カナダへITアウトソーシング(imex systems inc)

カナダはITアウトソーシング・プロバイダとしての長い歴史を持ち、アメリカへのITアウトソーシングの最大の供給国です。

他の主要なアウトソーシング国と異なり、カナダは世界でも最高の生活水準を維持する豊かな国家でありながら、もっとも効率的で高品質なアウトソーシング・プロバイダとしてと認められています。

インドや中国のようなその他のアウトソーシング国の人件費は確かに低いですが、他のコスト(例えば質の悪さや納品遅れなど)を考えると、日本の企業にとってはカナダにアウトソーシングするほうがより有用性があります。

カナダには豊富なIT労働力があり、安定した給与レベルと最小限のスタッフ離職率を誇ります(他の主要なアウトソーシング国の離職率は35%)。

このWebサイトはカナダの企業のものなので、どれだけ文字通りに解釈すべきかはわかりませんが、少なくとも彼らのサービスが粗悪な物ではないことを感じさせます。


これは、カナダ政府がITを積極的に政策に取り込み、企業を支援してきた結果の一つです。

カナダでは、カナダ産業省がIT政策を推し進め、1990年代からインターネット・インフラの構築を組織的に始め、そしてそれを利用した商取引システムを推進してきました。
カナダ産業省の戦略は、テクノロジーに限らず、関連する市場の構築、投資、貿易、教育といったIT産業の様々な方面にわたっています。

(財)日本情報処理開発協会、兼子 利夫氏のレポート「世界各国のIT政策 第三回カナダ」(pdfファイル)を読むと、カナダ産業省がいかに活躍しているか見て取れます。


また科学技術政策研究所の小笠原 敦氏よる「カナダの科学技術政策動向(2001年)」をみるといかにカナダの政策が強力で、効果を上げているかが見て取れる。


このレポートの冒頭には、興味深いことが書かれている。
最近米国シリコンバレーのハイテク企業経営者の間では、米国景気低迷による収益構造の悪化、長期に渡った好景気によるレイバーコスト上昇の問題、さらにはカリフォルニア州の電力危機、電力コスト上昇等により、生産拠点・研究開発拠点の移転が真剣に議論され、移転先としてはカナダが有力な候補として挙げられている。

カナダは優遇税制措置によって海外企業の研究拠点誘致を行うだけでなく、米国シリコンバレーの頭脳の中心となったスタンフォード大学のように・・・(以下略)


まさに現在、VFX業界で起きていることが、シリコンバレーで2001年に起きていたのだ。
●米国景気低迷による収益構造の悪化
●レイバーコスト上昇の問題
●優遇税制措置
の3点はVFX業界にもぴったり当てはまる。

アメリカは何もこのことから学ばなかったのか、非常に疑問が残るところです。

レポートは以下のように続きます。
人口は日本の約1/4(カナダ:約3千1百万人、日本:約1億2千7百万人)にすぎない

従来、カナダから米欧への研究・開発人材流出(Brain Drain)、技術流出が大きな問題であったが、それを克服して逆に呼び戻し呼び寄せ、積極的に人材流動、ミキシングを促すことにより研究アクティビティを上げることに成功しつつある。

研究・開発に対するマッチング・ファンド制度、産業クラスター構築等、日本でも取り入れつつある施策を先駆的に実施してきた点も注目に値するが、そのような研究インフラストラクチャーの構築とともに、カナダでは新たなるナレッジ・クリエーション(知の創造)には、異文化との人材流動、ミキシングが非常に重要であるという認識を有していることに大きな特徴がある。


VFX業界においては、従来からよくいわれるように日本からも、優秀なポテンシャルをもった人材がどんどん流出しており、それを克服しようという気配さえありません。
おそらくそれには業界全体の体力不足、認識不足があるのではないかと思えます。
また異文化との人材流動、ミキシングに関しては、まだまだ日本のVFX業界は弱いように思います。

また、日本にもe-Japanといった政策(pdfファイル)は存在するがカナダは日本よりもかなり早い時期に始めており、その支援策も多岐にわたっており、こういった政策が、カナダのIT業界、ひいてはVFX業界を強力に後押ししていることがわかります。


このブログを読む人はVFX/CG業界に興味がある人がほとんどだと思いますので、狭い範囲に注意がいってしまいますが、もっと広く「IT業界」として捉えると、様々な問題が見えてきます。


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では日本でグローバルに対応できるVFX企業を設立するとして、具体的にどれぐらいの、売り上げがあればよいのでしょうか?

@ITの自分戦略研究所 「IT業界の仕組みと流れ」にその答えの一端を見ることが出来ます。
第3回 IT業界、売り上げ1億~10億円の事業所が8割

体力のある企業とするには、一般的にこれだけの売り上げが必要なのではないかと考えて良いのでしょうか?
仮に中間の5億円を目指すとしましょう。
ドルにすると、「500万ドル」、アバターの制作費が3億ドルなので、60分の1(約16.67%)となります。
実際にあばたのVFX費用がどれぐらいかわかりませんし、通常のVFX制作費は、もっと安いかもしれません。
なので、おそらく、これを一つの映画のVFXだけで稼ぐのは難しいでしょうから、年間に複数のプロジェクトを行う必要があります。
そしてそれだけの仕事がとってこれるだけの、説得材料がなければ競争力が激しいハリウッドから仕事をとってくるのは難しいでしょう。
これだけはいかに営業力が優れていてもどうしようもないところです。


さて、上記の統計をみると、これらの大半はソフトウエア開発、データベース、システム運営です。
VFX/CG業界はこの中でも、かなりの少数派と言うことになりますね。
この程度の売り上げで、しかも少数派の業界のために、わざわざ政府が税優遇措置をとるとは思えませんね。
そうなるとコスト削減は見込めません。

税優遇措置を実現するには、政府がカナダのようにIT業界全体のことを真剣に考えてくれることが必要かもしれません。


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4回の「税優遇措置とは」連載を通して、ざっとVFX業界の表には見えて来にくい側面を見てきました。

日本でハリウッド映画のVFXを作れるようになるには、時差の問題も含めて、他にも様々なことを解決する必要があります。
世界の動向を考えると、いますぐ行動しないと出遅れることになるように思います。

政府に支援を期待することは、すぐにはできません。
でも、今は「今できること」を考え、やって行けたらと思っています。
まだまだ見識がせまいので、情報通の人や実際に企業や学校を運営しているひとからみるとお遊びに感じられる内容かもしれません。
でも何かの刺激になれたのであれば幸いです。

まぁ夢物語ですが「目標」は高く!です。

みなさんのご意見お待ちしてます。
是非コメント欄に書き込んでやって下さい。

いないとは思いますがw 、これを実現したい方いましたら是非ご意見を聞いてみたいのでコンタクト、大歓迎です。


   

2 件のコメント:

  1. 日本も自治体によってはそこまで大規模ではないにしてもいろいろ支援はされています。

    最近では、おきなわ新産業創出研究開発支援事業など。沖縄に関しては、大学院大学創立の関係でバイオ系のものが比較的多いのですが。。。

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  2. Hidenoriさん、コメントありがとうございます。
    沖縄のことは聞いたことがあったんですが、ずいぶん前の話かと思っていました。教えていただいた支援事業の名前でもう少し調べてみたいと思います。
    こういった情報をいただけると、視野がひろがるので助かります。

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