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2009年10月1日木曜日

「トランジション」を考える。 (ストップ・トリック 2)

(10月2日:ブログの編集機能がなおったので、修正しました。いろいろと文章を変えた部分もあります。書いている内に考えが変わったり、新しいことに気がついて、それを思いつくままに書いているので、文脈がとらえにくくなったかもしれません。)


ある状態から別の状態への遷移を、カットのつなぎで実現すると、一瞬画面がゆれたり、画面の一部がジャンプしてみえる。


「瞬時」にある物が別の物に変化するというのは、結構、衝撃的である。
映像効果としては、かなり強烈で、必要以上の心理的影響を与え、観客の注意を意図した以上に捉えてしまうのではないか?
それは他のカットとなじみにくくなり、浮いた印象につながる可能性もある。

「魔法」をみせる、うまい方法ではあるが、状況によって使い方に工夫が必要なようだ。

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この技法(ストップ・トリック)が、うまく働く一つの例として、すぐに思いつくのが、コミカルな作品。
コミカルな物はテンポ良く、ポンポンという変化で進むので、それにマッチするのかもしれない。

これの好例は、TVシリーズの奥様は魔女(1964-1972年)だろう。
(この番組を意図して選んだわけではないが、この技法は「魔法」とは切り離せないようだ。)

(解説:サマンサが魔法で右手の上にパイを出現させている。)

色んな物が、表れたり、消えたり、別の物に変わったり。
1960年代には、もうよく知られた技法で、すでに時代遅れだったかもしれないが、
作風にマッチしており、テンポ良くことが進んでくれる。

前回のエントリで紹介した、メリエスの「ロベール・ウーダン劇場における婦人の消滅」(1896年)もユーモアのある作品だ。
(メリエスが婦人を再出現させようとマジックを使うが、骸骨しか出現させることができなかったシーン)

「月世界旅行」(1902年)では、月面を人の顔に見立てて目にロケットがつきささるというシーンでつかわれていたが、このシーンもコミカルであるとも言える。

このシーンを再度、よく見ていると、深読みかもしれないが、次のことに気がついた。
弾丸ロケットが月面に衝突するというのは、「瞬時」に起こること。
ストップ・トリックにより、その「瞬時」におきていることを再現しているということだ。

「衝突」を再現するということは、その直前に物質と物質が衝突点に向かって、片方もしくは両方が早いスピードを伴って、移動しているということである。

ようするに「衝突」だけでなく、その物質の「スピード感も表現できる」。

「月世界旅行」では、目にもとまらない、スピードで、飛んでいったロケットが瞬時に命中したという印象を与えることができる。

「瞬時に起きる現象」

これが、この技法が、うまく機能する、もう一つの例ではないかと思う。
興味深いのは、これは「魔法」の再現ではなく、現実に目にすることができる現象を再現しているということだ。
(ここで「現実」とは、月面の目にロケットがつきささるということを指しているのではなくて、物質がなにかに衝突したり爆発したりするという意味)

つまるところ、ストップトリックというSFXの技法は、魔法という「非現実」を再現するだけでなく、瞬間に起きる「現実」をも再現するために使われるようになったということだ。



メリエスの「月世界旅行」(1902年)を、さらにみていくと、別の場所でこのストップ・トリックが使われている。
Youtube: A trip to the Moon (Part 2)

それは、月面人(?)を傘でたたくと煙と共に月面人が消滅するシーン。(3:30)(4:40)
月面人がいる映像と、煙が発生する映像を別取りしてカットでつないだだけだが、実になめらかで効果的だ。

(解説:
画質が悪い上、小さいので、わかりにくスクリーンキャプチャだが、
左から、
「すわっている月面人に立ち向かい傘をふりあげる探検隊」
「傘を振り下ろし、月面人のいたばしょに爆発(煙のみ)がおこる」
「煙が立ち上る」
の順になっている、
ストップトリックは左と真ん中の画像の切り替えに使われている。)


爆発を表現した煙は、瞬時にあらわれても違和感がないどころか、爆発という急激な変化を再現できている。
立ち上る煙によって、観客の注意をうまくひき、物語の継続性も保っている。



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以下の事はまったく自分の想像であることをお断りしておきます。(まぁいつもそうなんですが...。)
いくつかのWebサイト、Youtubeの映像を年代順に調べて観察してみたことに基づき書いていますが、観察漏れ、もしくは収集できなかった情報があり間違っている可能性もあります。



ストップ・トリックは、カットをつなぐことで「瞬時の変化」を映像化できるようにした。
初期のストップ・トリックは、
「置換(変化)」
「消滅」
「出現」
を映像化することに使われた。

それは1フレームの遷移の間におきることで変化の途中経過は映像には表れない。
まさしく「パッ」っと起きる。

そして、その変化が気がつくように使われたのが、「ロベール・ウーダン劇場における婦人の消滅」(1896年)における骸骨の出現である。
その変化が気がつかないように(実際にはわかるが)使われたのが、「幾つもの頭を持つ男」(1898年)における、本当の頭と作り物とのすげ替えである。


そして、ストップトリックは発展した。
ここまで敢えてふれるのをさけていたが、「ロベール・ウーダン劇場における婦人の消滅」では、最初に婦人が布をかけられる。
そしてその布を取るときに、消えるという舞台マジックがそのまま映像技法によって再現されている。

実は、布をかけられているので、婦人がいつ消えたのかどのように消えたのかは、見えていない。
(撮影ミスで実際には、わかってしまっていますが、そこはご愛敬ということで...。)

「消滅」のためにストップトリックが使われているにもかかわらず、その消滅する瞬間は見せていないのだ。

その理由は、実はそこにストップトリックの限界があったからではないかと思う。


現実の世界における変化では、わずか1フレームの遷移の間におきる変化というは存在しない。
これはフィルムの速度の事をいっているのではなく、「0秒」で起きる遷移のことを指している。

現実の世界では、たとえ0.01秒であろうとも、一桁下げて0.001秒の速度で観察すれば、数フレームでの変化が存在する。

要するに「変化」というものは速度の違いはあれ徐々に変化するものだ。

ストップトリックでは、これを再現することは不可能。
ようするにストップトリックは「映画」という時間をとらえる技法において、時間をとらえることが「できない」という矛盾をはらんだ技法なのだ。
これがストップトリックの限界だ。



ただ実際にはフィルムは人間の目で捉えることの出来る限界速度1/24秒で撮影されており、その速度以上なら、フィルムに捉えることができなくても良しとされる。

問題は、1フレーム、1/24秒以上の速度で起きていることだ。
2フレームから3フレームの間におきる変化であれば、フィルムに映像としてのこるはずである。


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「変化」を取るか? 「変化の過程」を取るか?
ストップトリックでは「変化の過程」を撮影することはできないが「変化」を感じさせることはできる。

そこで選択されたのは、わずか数フレームでおきる「変化の過程」は省略して0秒でおきる「変化」として映像化するということだ。

これによりストップトリックは1秒以下というわずかな時間でおきる変化を映像化するという技法としてもつかわれるようになった。

技法も、見た目はかわってはいないが、見る物にそのわずかな時間を心理的に感じさせるような使われ方になったということだ。

それはわずか数フレームかもしれないが、これによりストップトリックはコンマ数秒という「時間」を手に入れることができた。

それは、ここではじめて、この技法が「映画」というものになじむことができたということかもしれない。


ストップトリックの初期におきた発展は、このように技術的な物ではなく「使われる対象の変化」だった。

人間の目では捉えることの出来ないスピードで起こる変化。
たとえば、人間の知覚できるスピードが1/24秒だとしたら、その数十倍の速度で起きる変化の再現につかわれるようになった。

「爆発」
「衝突」

これがストップ・トリックによって映像化されるようになった。

厳密に言うと、爆発や衝突は、わずか数フレームだが、時間軸にそって起きる変化であり、カットをつなぐ技法では十分には、対応しきれていない。

そのため、1/24の変化で感じる事ができる、人間の目には、違和感を感じさせる。

しかし、「数フレームでおきる変化」を映像化できることのメリットはとても大きい。
これにより、表現できる範囲がいっきにひろがる。


飛んできて突き刺さる矢、ナイフ、手裏剣、風車。
爆発、車の衝突、着弾効果など。

昭和の時代のTV特撮で存分にみせられた、様々な効果がそこにある。
今でさえ、つかわれている技法は、この時に発展した物だ。


そして、SFXの技法はさらに発展し、ものの「変化」を再現する技法は、さらなる「時間」を手に入れることができるようになっていく。

 

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