日本でハリウッドVFXを制作! 「経産省アイディアボックス」 結果:  
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2009年10月10日土曜日

デジタルドメイン カナダ支社

LA大手のエフェクツプロダクションのデジタルドメインがついにカナダ支社を設立するということがついにオフィシャルに公表された。
The Vancouver Sun :Digital Domain to open Vancouver visual effects studio
(2009年10月5日付)

記事の要点を簡単に訳すと以下のようになります。
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デジタルドメインは、20000平方フィート(1858平方メートル)の広さを持つスタジオを2010年の早い時期に開く予定です。

50~60人のアーティストを主にカナダ人から雇い、2010年の終わりまでには100人のスタッフにすることを計画している。

まず最初のプロジェクトにとして、トロン・レガシー(ディズニー)の部分的なショットを予定しています。

デジタルドメインは、ブリティッシュコロンビア州の税額控除と、この都市の世界的に有名なデジタルアーティストの人材という有利な点をとりれるためにバンクーバーに来る。

「複数の場所にわたって、我々の才能とリソースを拡張することで、経済、創造性、技術に関係なく、制作へのあらたなチャレンジができるように解決策を提案できるようになる。」とデジタルドメインのCEO Cliff Plumerは語っています。

Gloria Bordersは火曜日にフィーチャーフィルム・オペレーション取締役に任命され、ベニスとバンクーバーの両方の婦度楽ションを監督する予定。

彼女は、以前ドリームワークスアニメーションでシュレック3、マダガスカル2などの制作を管理した経験があります。

(訳注:以下はデジタルドメインの歴史なので省略)
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先月vfxpro.comにカナダのバンクーバーで面接をするという募集がデジタルドメインからでていたので、「もしかして?」と思っていたがやはりそうだったらしい。

カナダで人材募集をかけるということはそれ以外に考えられないからだ。


いろいろな費用の関係で、ハリウッド大手のVFX会社が海外へ支部を設立し始めたのは、今回の金融危機以前から始まっている。

ILMのシンガポール支部、リズムアンドヒューズのインド支部、の設立。
そして、最近では、ピクサーのカナダ支部。

VFXの制作費はコンピュータの進化、ソフトウエアの進化に従い、どんどん予算がさがっている。
映画制作者側からすれば、嬉しいことかもしれないが、VFX制作側としては戦々恐々としてくるような状況だ。

そしてもし、大手VFXプロダクションが、LAに在住するCG/VFX業界のアーティストにある程度見切りを付けはじめたのだとしたら我々アーティストにとっても人ごとではない。


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すぐに何か起きることはないかもしれないが、5~6年後にはじわじわとその影響を実感することになりそうだ。

そこで自分の会社におきていることから、つねずね懸念していたハリウッド現状を良い機会なので書いておきたい。。

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1)まず人件費。
うちの会社でも正規雇用をやめ、フリーランサーを使うようになった。
正規雇用していた人材を解雇し、フリーランサーとして雇い直すことで、不要になればいつでも首を切れる。
これにより無用な人件費を削除できる。

仕事が少ないときに正規雇用者をかかえることは無駄な出費となるのでこれは当然のこと。
それでもいままで何とかなったのは仕事が継続してあったからだ。
仕事が少ない時期に正規雇用者をかかえることは、コスト高、もしくは生産のないところに支出することになる。
ある程度、予算に余裕があるか、なんらかの形でそういった部分を消化することができないと、プロダクションの経営に支障がでる。

これはうちの会社だけでなく大手ソニーでも起きたことだ。

しかしフリーランサーを雇い、プロジェクトがおわれば首を切るというのは以前からこの業界では当たり前のことだ。

今回は、visaの維持に正規雇用という条件が必要な外国人雇用者に対しての解雇は少なかったかもしれないが、以前にもまして正規雇用者を抱える余裕がなくなってきたのだろう。

(ちなみにピクサーは正規雇用が基本らしいので、この考えはあてはまらないかもしれない。)



2)就業時間に制限をもうけ、その時間内でしあげるようにプレッシャーもかかる(うちだけかもしれないがw)
これはうちだけかもしれない。
残業は減ったがプレッシャーはかかる。


3)visaの問題。
いままで外国人を雇うときにはH1bというvisaで雇うことが普通だった。
それが数年前より抽選になった。
まずはクリントン政権のときに増枠されていたH-1b発給数が、法案が期限切れとなった2004年度に195,000から65,000へ激減。
それ以降、visaをとれず繰り越しとなっていた人が2007年に殺到。
初日の申し込み受付で、はるかに限度を超える申し込みがあったのだが、規定により初日の申し込みを締め切ることができないので、抽選になった。
それが現在もつづいている。
当然ながら、企業が雇いたくても移民局の抽選にもれたらvisaを取得することはできない。
もちろん他にもVisaの取得方法はあるが、H-1bにくらべて条件が厳しい。
企業側も思うように人材を集められなくなった。



3)給料の安い人材を選ぶ。
人件費にも関係しているが、これから雇う人材ということに焦点をあててみた。
今は、ソフトウエア質もあがり、いろいろなことができるようになった。
そして学校でもそれを習うので、学校を卒業したばかりでもそれなりのものが作れる人が増えてきた。

それだけではない。
中堅以上の企業では、長年の歴史の中で資産がたまっている。
スクリプト、自社開発のプラグインやソフトウエア。
教育システム、仕事の分類方法、アーティストの使い方といったノウハウ。
これにより、新たに雇ったアーティストを、ある程度のレベル(使い物になるレベル)まで引き上げるのに
以前ほどの時間を必要としなくなったと考えられる。

もちろん、新しい技術開発は必要なので、そういった人たちや、まとめ役には経験者はまだまだ必要だ。
しかしながら言われたことをやるオペレータなら、学校を卒業し手間がない人材でもなんとかなる可能性がある。

そういった人材は格安だ、場合によっては熟練者の半額以下の金額で働かせることもできる。

ハリウッドも熟練者はかなりふえてきて、人あまりのような気もする。
熟練者が片手間に自分のスキルより下のレベルの仕事をやってたのだとしたら、コストは割高となる。

熟練者を一人雇うよりも、初心者を3人でもやとってきちんとした指示を与えてやらせたほうが、コストが安く付くこともある。

もちろんこれは、きちんとしたノウハウや、失敗があってもその損失を吸収できるだけの体力がある企業でなくては危険性もつきまとう。


4)熟練者が増えすぎた。

現在のVFX業界で5年以上の経験者はざらにいる。
5年どころか、10年以上というのも多い。

そういう人たちは、ある程度の物は簡単に作ることができる。
しかしながら、ソフトウエアの向上や企業資産の蓄積で、かならずしも高度なスキルがなくてもある程度の質を維持することができるようになってきた。

それは熟練者にとっては、仕事上、自分よりも遙かに下のレベルの技術で仕事をすることも増えると言うことになる。
それは、企業にとっては能力の無駄使いであり、本来ならもっと安くあげられるものが高くなっている。


日本人からすると熟練すれば時間が早くなるからコスト的には変わらないと考えるかもしれない。
しかしこちらの人間は休憩の回数が多かったり、その時間が長かったりする。
会社によってはインターネットみてたりもする。

勤勉な日本人から見るとあきらかにサボりである。
そのくせ、残業をしたがらなかったり、休日は必ず休んだりする。


そういった時間は、「生産のない時間だが給料を払わなくてはいけない時間」ということになる。
その時間が初心者と熟練者が同じなら、当然熟練者を雇う方がリスクが大きい。

また初心者は、人によってははやくレベルをあげようと勤勉である。

企業側にとって利益になると映るのは、当然後者だ。



5)映画やTV制作のVFX予算低下
ソフトウエアの向上や資産の蓄積によってもたらされたのはVFXの質の向上と、操作性の向上だけではない。
それによって制作期間も短縮された。

一昔前の大作映画で使われたVFXが、いまやTVシリーズのわずか1週間という制作期間で作られる事もある。

当然ながらおおくの企業が同じ事ができるようになり、競争も起こる。

そうなるとやはりコストを下げざるを得ない。
実際にはコストを下げると言うよりも、ある程度のVFXをクライアント側の値切りに会わせても仕事を取るためには
妥協せざるを得ない。



これに加えて、いまは海外のプロダクションも増え、中国やインドの企業へ発注されることもある。

そういった海外のプロダクションでも低予算ながら、過酷な労働時間、アーティストのやる気、安い人件費によってハリウッドと比較しても遜色がない物をつくるようになってきた。

それがますます制作予算の低下をまねいたことは想像できる。


そして、上記の4にも関係しているかもしれないが、無駄に流れてしまっているお金が多い。


日本人は、あらかじめすべての問題点を洗い出してから計画を綿密に立てる傾向がある。
しかしアメリカ人は、まず計画に着手してから、問題があれば解決していく方法をとる。
それは最初から全ての問題はわからないという理由からだろうが、この業界(うちの会社)にいると本当に計画性がないと感じる事がある。

おそらく大手の企業だとここまでひどくないと思うが、それでもここのアーティストにもこれはあてはまる。

あるショットが依頼されたときに、見積もりをしたとする。
そこにあるのはすべて彼が考えてきた筋書き通りに起こるということで計算されており、自分が想像しないほどの深刻な問題がおこるとは考えには入れられていない。
60%の確率なら100%ぐらいでできるぐらいの自身で返事が返ってくる。

で、問題が起きたときには、まず自分に非があるなどとは考えないので誤ることはしない。
「アレが悪い」「これが悪い」の理由づけのオンパレード。
で、聞いてる側の管理者側もそれを真剣にとって、議論を始める。
横で聞いているこっちは、どんどんむかついてくる。

実際仕事ができなくても、この理由付けと解決策にいたるプレゼンテーションがうまければ、こいつはできるやつと思われ出世するので、やれやれだ。

日本人なら「すみません」「わかりました」ですんでしまうようなこと。
問題解決方法をすぐに実行し始めることですむことが、延々議論になり、簡単な解決策にいたるまで数分~数十分が費やされる。


どちらも可否があるが、こちらでそれが悪い面にしかはたらかないと、
管理不足、計画不足を「想像し得なかった問題にぶつかった」ということで済まされてしまう。

おそらくこれはおおくのプロダクションで大小かかわらず日々繰り返されていることだろう。
そしてこの積み重ねは、最終的にコストに関わってくる。


これがハリウッド映画やアメリカのプロダクションでの制作費が高くなる理由の一つだと思っている。
たまに、どうしても納得いかず、腹を立てることがあるが、変わったやつぐらいにしか思われていない。
(それは、それで腹が立つが)

ただ、これはアメリカ人同志では気がつきにくい問題なのかもしれない。

「何故かわかんないけど、アメリカでVFX作ると高く付くんだよね~」
「ハリウッドは歴史もあるからね、安くできないんじゃないの?」
「カナダだとこんなに安いよ」
「安くて済むなら、うちもカナダに会社作ろうかな。税金控除も大きいしね」
こんなふうに会話が進んでいるのかもしれない。

まぁカナダがアメリカン人みたいな働き方をしていないという保証は何もないけど、アメリカ人が自分たちの仕事のやり方を反省しなければ、こういった問題点が解決されることはなく、アメリカからどんどん外部へ仕事は流れていくようになるかもしれない。

実際に自動車業界の歴史も同じようなことに起因するのではないかと思う。
自動車業界は、ジャパンバッシングにおいては政府に救われたものの、
自分たちのおごりや、仕事のやり方などを改善することはあまりなかった。
数十年たち、市場価値自体は下がり続け、ついに今回のようにビッグ3の崩壊という結末になった。

商品としての車の価値が問い直され、新たに開発を推し進めたのは、自分たちの計画に予想しなかった問題がおきて、それが自分の尻に火をつけて、しかも大やけどしてからだ。

VFX業界は自動車業界とは違うとは思う。
しかしながら世界的にどんな業界でも、サービスや、品質に対する価格がつりあうかどうかという判断は厳しくなってきている。

VFX業界は、目に見える物質的なプロダクトではないし、プロダクションの移設も非常に簡単におこなうことができるだけに、いったん崩れはじめると崩壊までの道筋も短時間で起きるような気がする。
それに、政府も業界の一部として考え、自動車業界ほど大きくないので援助があるかどうかもわからない。

反面、VFXサービスを生み出す体制を整えさえすれば、まだまだ底力はあるだろうから新たな時代を創り出すこともできるだろう。

個人的には立体映像が、その一つで会って欲しいと願っている。


6)税金などの経費
ハリウッドのあるカリフォルニア州は、税金も高く、州自体破産寸前では安くなる見込みはない。

映画関係者が州に支払う税金を引き下げて、映画・TVの制作をやりやすくしてはどうかという声もあるらしい。

しかし、制作費のほとんどは、プロデューサーや、俳優など関係者の一部に流れてしまっているので優遇しても
一部の人間が私服を肥やすだけと見られている。

他に何も得になることはないということで、この案は、見送りになっているのが実情だ。

映画業界全体からみるとVFXはほんの一部だ。
政府側も、そのような小さな部分を気にする必要はないと考えているのかもしれない。




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<カナダの利点>

今回の記事にもあったが、カナダにプロダクションが作られる利点のひとつはその税金控除だ。
これが企業としてはかなり魅力らしい。


数年前(ひょっとしたら10年以上前)にどこかのテレビ番組で、カナダはITの教育と企業誘致に国を挙げてサポートしているというのをみたことがある。
今現在もそのままなのかどうかはわからにが、今は先進IT国家として知られており、VFXに限らずIT関係の教育は充実しているらしい。
おそらくIT関係の企業にはその優遇措置として税金控除項目に違いがあるのだろう。



カナダは、VFXを含めて、フィルム関係の学校、プロダクションが集中していて第二のハリウッドと呼んでも過言ではない。
教育関係も充実している。


VFX経験者、学校を卒業した初心者共に、豊富なのだ。

それに税金措置がくわわれば、企業としてはおいしい話だ。

それにvisaの問題もない。



問題は、ハリウッド(LA)との画像データを含む情報のやりとりぐらい。
それも今はインターネットで改善されている。

同じLAでも、テレビ会議も普通だし、撮影されたプレートや完成したショットがFTPを使って送受信される。
テレビ会議も、ムービーをみながら画面に書き込みもできる。


もちろん直接あって話すことは、いまでも重要だが、その機会は極端にすくなくなったといえるだろう。

そして、その相手がカナダにあったからといってさほど変わるわけではない。
時間も同じ、ただ直接会おうとしたときにすぐには会えないこと、会おうとしたら移動時間とコストがかかるということぐらいだ。

直接会う人間も、そして時間もそれほど必要ないのであれば、その移動にかかる時間とコストは、カナダで支社を運営する欠点にくらべれば、はるかに小さな物になる。


これでカナダでのプロダクションでの成功例が増え、カナダでのノウハウが蓄積されてきたら、プロダクションの移転準備はほぼ整ったことになる。

アメリカに未練のないVFX企業の経営者がどんどんカナダに流れていく可能性もないとは言えない。


LAの魅力はなんだろうか?
冬になっても日本の秋ぐらいの寒さであり、年間通してほぼ晴天がつづくというそれぐらいだろうか。
家賃も高いし税金も高い。

カナダへの移住を考えた方が良いのか???


 (2009年10月12日:若干の訂正と文章の追加を行いました)

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