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2009年10月2日金曜日

「トランジション」を考える。 (ストップトリック: まとめ)

いままで、「(オブジェクトの)トランジション」のテクニックとして、「ストップ・トリック」を見てきた。

本当は今日から「ディゾルブ」について書こうと思っていたが、もう一度頭を整理したいので「ストップトリック」をまとめ直した。


<ストップトリック(ゼロ秒の変化)>
わずか、1フレームの移り変わり=ゼロ秒の時間の間に行われる。
ゼロ秒とは、すなわち、時間が存在しないということだ。

これは時間を記録するために存在する映画においては、非常に特殊な概念かもしれない。


これで表現できることは、
1)ゼロ秒で物が変化する。(Aという状態からBに変化する。A、B、それぞれ無の状態もあり得る)
2)物が変化した事に気づかせないために使用する。(本物と作り物の首のすげ替えなど)

これは、フィルム2コマの間にある境界の前後が異なる映像で構成されているということになる。
そして主としてそのオブジェクト以外の映像(バックグラウンドなど)は同じである。

わかりにくいが、これを時間軸にそってアルファベットで書くとこうなる。

AAAAAAAAAABBBBBBBBBBBBBB(変化する部分:オブジェクト)
CCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCC(変化しない部分:バックグラウンド)


前後の映像にあるオブジェクトが全く異なるものであれば、観客はそのオブジェクトが変化したと認識する。
前後の映像がまったく同じにみえるものであれば、観客はそのオブジェクトが変化してことに気がつかない。

その境界から、前後の状態をある程度の時間みせているので、見る側は状態が変化したことに気がつく。

この「ストップテクニック」は、「変化そのもの」を記録しているのではなく、「変化した前後」を記録しているにすぎない。
これにより、観客にそのへんかを想像させているだけだ。



時間を記録しているわけではないので、撮影時には、時間にとらわれないでいられる。

どういうことかというと、撮影時に、Aの状態を撮影し、
それをBの状態へ変化させて撮影するとする。
そのとき、Bの被写体を準備するのにいくらでも時間をかけることができる。


1)女性Aの顔を撮影(状態A)
2)女性Aの顔に怪物のメークアップをする。(状態A→状態B)
3)怪物になった女性Aの顔を撮影(状態B)

ようするに状態Aから状態Bへ変化した現実の時間は記録されない。
上記のステップ2では、場合によっては無限に時間を費やすことができるかもしれない。
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<ストップトリック(ミリ秒の変化)>

最初のこの技法の発展は、「ミリ秒の変化」だ。
(この発展というのは、年代的な発展としては現時点では、確認できていない。ただ概念的な発展としてはありえるのではないかと考えている。)

そわずか数フレームでおきるミリ秒の時間は人間の目には「一瞬」だ。
これを「ゼロ秒」と割り切り、同じ技法で表現することで、ストップトリックは時間を手に入れた。

実際にはミリ秒の間に起きている変化は、人間の目に捕らえることができる。
普通の人は見えていないと考えていても、肉体としての目は感じ取っている。
しかし、その感じ取れる部分はあえて省略している。

映像の嘘であり、違和感を感じさせる部分ではあるが、なんとか人の想像力で補うことができる。

数ミリ秒の間におきている変化は省略され、記録されていない
実際には撮影されていないことを撮影したように見せているだけである。

それは観客の頭の中だけ再現されることになる。


技法も見せ方も変わったわけではなく、撮影の対象を拡大したにすぎない。
観客に想像力をより活用するようにしたということだ。


※ 余談だが、観客の想像力を使う映像技法が長い間、台頭していた。
しかしCGの発展によって、想像で補ったいたものをすべて映像として見せる事ができるようになった。
そのような映画は楽しみがあるのだろうか?
たしかに作る側になればいろんな想像をしてつくるのでおもしろい。
しかし、見る側はどうなんだろう?
個人的には、最近の映画はおもしろい物がないと感じるが、それは見る側が想像力を使う必要がなくなったからではないかと思う。
わくわくすることは、ストーリーの展開やカット割りだけでなく、そうした一つのショットで何が起きているのかわからない部分を想像で補うことで達成されていたのではないかなと思う。
こんなことを言っていると、年寄り扱いされるのだがw。



さて、この「瞬時」という短い時間におきる出来事を撮影対象とすることによって付随できた表現は、「スピード」だ。
短い時間に大きな距離を移動しているようにみせることができれば、そこにスピード感を感じる。


たとえば、矢が飛んできて人にささるとする。

1)人を撮影(A)
2)矢を人に付けたメークアップをする。
3)矢の付いた人を撮影(B)

観客は、矢が突然、人の胸に付いている映像をみることになる。
矢は指向性を持って飛ぶため、観客は矢がフレームの外から飛んできたと考える。
そして、矢はすごいスピードで飛んできたので、目には見えなかったのだと考えることになる。
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<ストップトリック(数秒の変化)>
これはストップトリックに含めて良いのかどうか迷ったし、正論かどうかわからない。
とりあえず、自分の中で整理しておくため、「時間のあるトランジション」を表現するもうひとつの方法として含めることにした。


ストップトリックを使うコマの境界線をはさんだ前後のシーンに、継続する変化を含める方法。
前後の映像自体が変化を含む、しかしAからBへ変化するのではなく、
AがよりBに近い状態に変化していくがBに変化してしまうわけではない。
Bの部分ははAに近い状態からBの発展した状態へ変化していくが、Aから変化しているわけではない。

これは例をあげたほうがわかりやすい。
メリエスの「月世界旅行」で月面人が煙となって消えるシーンを思い出して欲しい。

これの撮影手順は以下のようになる。
1)月面人をたたくシーンを撮影(状態A)
2)月面人の役者は退場し、火薬をしこむ。
3)火薬を発火し、煙をだすシーンを撮影する。(状態B)

この例では状態Aの部分は通常のストップトリックと同じだ。
状態Bのみが「より発展した状態へ」変化していく。
これは爆発という一瞬を表現しているわけだが、ステップ3の煙を出すことで、
その爆発の継続的時間を手に入れている。
状態Bが起きた瞬間から継続していると言うことになる。

もともとのストップトリックでも状態A、B共に時間的に継続した映像になっている。
Aの部分はAを数秒撮影しているし、Bの部分はBを数秒撮影している。

しかし、この技法では、ただ時間的に継続して同じ対象を撮影しているだけではない。
その対象が「変化を継続している」状態を撮影している。


変化するものを境界線の前後に数秒含めることができるものは、これにより「状態の遷移」を数秒間にわたり感じさせることができるようになる。

個人的には、この「数秒の変化」を含めることを思いつくことで後の、ディゾルブ技法がより生きた技法になっていったのではないかと思っている。



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追記(2009/10/07):

「ストップトリック」は、「物が変化する表現」に使う場合、非常に強力な視覚的影響をもたらす。
実際には起きないこと、非現実なので、リアリティーを追求するには不適切である。

非現実であり、そのテクニックが明らかに見て取れても受け入れられるのはコミカルな表現においてのみといっても過言ではないだろう。

このことは、現在のVFXにおいても非常に重要な教訓となっているように思う。

1フレームで状態が変わるようなことは、、狙っているのではない限り、してはいけない。

それは非現実的な、視覚効果をもたらし、どんな小さな物でも、一瞬にして観客の注意をひいてしまう。
それは、ストーリーテリングにおいての技法として用いているのでなければ、逆効果となってしまう。

実際の現場においては、ある物が一瞬に違う物に変わるなど、目立つのでするわけがないと思うかもしれないが、以外と初心者には見受けられる間違いだ。

特に、わずか数フレームのうちに急速に変化するものなどは、ディゾルブ、もしくはフェードインやフェードアウトを使っていなかったりする。
アニメーションなどで空間の移動距離を見誤り、思いがけずストップトリックのようになってしまっている例もある。

コンプで爆発などコントロールするべきものが多くなるとこういったことが増えてくる。
理由は、非常に神経を使うので見落としがあるか、めんどくさくていいかげんなところで辞めていることだ。

プロは非常に細かなところまで徹底してコントロールできるからこそプロだと思うので、そういったところもきちんとコントロールして欲しいと思う。

 意図していても意図していなくても、そこにストップトリックの原理が作用している限り、観客の注意は多かれ少なかれ、乱されてしまう。
 

 

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