日本でハリウッドVFXを制作! 「経産省アイディアボックス」 結果:  
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2010年2月17日水曜日

日本とハリウッドのVFXプロダクションについて、

一般的に、ハリウッドのVFXはすごい、日本のVFXはしょぼいと評価されることが多いですが、最近は日本のVFXも頑張っており、あっと思わせるVFXショットも度々みられるようになってきました。

そして、ハリウッドで働いている様々な日本人が口にしているように、決して日本人の技術レベルが低いわけではありません。ハリウッド第一線で活躍する日本人が多いのはご存知の通りです。

参照:『アバター』制作の裏側!! 元wetaデジタル村本浩昭さん講演メモ(元ブログ:CGクリエイターができるまで)


日本で、高度なレベルに達した人は、海外を目指す人が多く、実際に渡米して成功している人も多いのが事実です。
これは日本から優秀な人材が流出していると言うことでもあります。
今もやる気ある学生などは最初から、海外を目指す人が多いようです。




その原因の一つとして、日本は低予算であるということがあるように思います。
作業工数も限られ、日程も短いために作り出される映像の質をきわめていくことが難しい。
これは想像ですが、ようするに上級者にとっては、がんばっても、それがかならずしも質に結びつかなかったり、評価に結びつかず、おもしろみがなくなり、やりがいも無くなるのでしょう。
ハリウッドの大手プロダクションでは、開発に必ず時間とお金、人材が割かれ、大作映画ではほぼ毎回のように、新しい技術が開発導入されている。

いわば日本のCGプロダクションでは、多くの場合、自分の可能性を試すだけの環境がないともいえます。(あくまで一般論で、日本でもすぐれたプロダクションはあります。)
簡単に言えば夢がもてないということかもしれません。

日本のプロダクションの実情は、人から聞いた話しかしらないのですが、予算の制限などの諸事情を考え合わせると、ある程度想像することができます。
まずお金がないということは、人件費を節約する必要があり、作業時間も切り詰める必要がある。
そうすると一人が担当するカット数が増え、締め切りまでの時間も短いと言うことは想像がつく。
結果として、締め切りに間に合わせるには、既存の技術を使うことが増え、目新しい技術を使うような余裕はあまりなくなる。
そして、質を十分につめていく時間も不足することはよくあることかもしれない。


ハリウッド映画でいえるのは、質を十分につめるためにすべてが行われる。
開発もそのためだし、様々な専門分野のアーティストを集めて作業をするのもそのためだ。
末端の作業においても、ライティング、アニメーション、シェーディング、そしてコンポジットなど。
すべてが求める質を得るために力が注がれる。
不自然で実写となじんでいないコンポジット、不自然な動きをするアニメーションなど、すべてが完璧になっているとは思わないがそれぞれに完璧と思われるできになるまでは、妥協しない。

現在では、長年にわたる、そういった制作体制を経験した人がチームを率い、そこから生み出されるものをよく知っているCGスーパーバイザーやVFXプロデューサーが増えている。
こういった人達は非常に目が肥えており、微妙な違いまで指摘し、最終的な質を確保することに貢献する。


またハリウッドでは、沢山の映画関係者がいることから、競争も激しい。
そのため必然的に優れた能力を持った人が生き残ることになります。
そしてそれは大作映画にかぎらず、TVや、低予算映画でも、非常にするどい目をもった人がいる。
これらの人は、中小規模のプロダクションで活躍し、大手のプロダクションが作り出すような質を、創意と工夫で乗り切ります。
日本で公開されたハリウッド映画で、小さなプロダクションが市販のソフト、いくつかのスクリプト、市販のプラグインを使ってVFXが作られたのを知っています。
おそらく日本のプロダクションよりも、技術的には劣っているのですが、スーパーバイザーやプロデューサーは見せ方を知っています。そしてクライアントもこだわりがあります。


実際の所、こちらの中小規模のプロダクションは技術や設備は、日本とほぼ違いがないように感じる事もあります。
ただ、質へのこだわり方や、それを導く人達の感性や考え方が異なるだけではないかと思う。
こう書くと「日本人の感性や考え方を棄てろというのか!」とお叱りをうけるかもしれない。
それはここで言いたいことではなく、誤解であることをお断りしておく。
作品に反映される感性や、制作における考え方は日本人のほうがすぐれていると感じる部分もある。
だからこそ、なぜ日本人がこの部分において弱いのかが疑問である。
感性や考え方はすぐれているのだが、それをどうやって最後まで生かしきるのか?と言う点が足りないような気がする。ようするに様々な制約により、本来出せるべき感性や考え方が、どこかでしぼんでしまって100%だしきれていないというのが日本のCG産業をみていての正直な感想である。


日本には、こういった人材が少ないもしくは、そういった経験を積んできた人が少ない(と思われる)、もし日本でハリウッドVFXを制作するとしたら、こうした微妙な違いまで見極められる目の肥えた人達が必要となる。
そうでなければ仕事を発注する側から相手にされなくなるだろう。
その一番の早道は、海外からスーパーバイザーやプロデューサーを雇い入れることではないかと思う。
それは日本人でもよいが、ハリウッド映画に長年関わった人であることが好ましいでしょう。
こうした人について働くことで、日本にもそういったセンスをもった人が増えてくることがハリウッドの仕事を受注することの一つのメリットです。

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ハリウッドVFXを日本で制作するというと、ロードオブザリングや、スパイダーマン、はてはアバターのような物を日本で作るのか?と思われる人もいるかもしれない。

正直言って、それがすぐにできるとは思っていない。
これにはハリウッド映画がどのようにして作られるかを知っておく必要がある。

まず、この業界に興味がある人なら誰でも知っていることだが、一つの映画のVFXをたった一つのVFXプロダクションで作ることはない。
量が多すぎるのだ。期限内でおわらせるには、それを分散する必要がある。
また、ショットの内容によっては、水を得意とする所、動物を得意とするところ、爆発などを得意とするところなどにわけて発注する。
この部分は、主に大中プロダクションがしめている。
大手プロダクションは自社の得意とするところを全面に押し出すために、日々新しい技術の開発にせいをだし、他の追随を許さない。
中規模プロダクションでも自社ソフトウエアを開発し、売り物となる得意分野を開拓したところもある。
このようなケースでは100ショット以上の受注も普通に行われることだろう。

実は、どんな大作映画にも、その他の中小プロダクションが関わっている。
これらは自社ソフトを開発するほどの体力はもたず、スクリプトなどで既存のソフトを改良して使っている程度のことが多い。(もちろん、簡単なソフトであれば開発することもある)
小規模のプロダクションにおいては、ほとんど市販のソフトとプラグインしかつかわないところもある。
これらは、VFXがあるとはわからないようなショットを手がけたり、マニーショットそのものではないが、それに近い物を作ったりする。
小規模であれば、予告編につかう4カットのトラッキングだけを受注することもあるし、数十カットのワイヤーリムーバルを手がけるところもある。他にも爆発関連を10カットとか、水しぶき関連を5カットとか、胸に付けているバッジの絵柄を変えるだけとか、いろいろだ。
このように、大手プロダクションの技術をそれほど必要としなくとも作れるようなショットは、小分けにして小さなプロダクションにまかせることがある。
このようなケースは数多くあり、あまりにも少ない作業だと、映画のエンドロールにアーティスト名はおろか会社名さえ出ないこともある。

このようなプロダクションは、クライアントに自社のデモリールを見せてアピールしたり、ショットの具体的な予算を提示する。クライアント側は同じショットを数社に依頼して、テストをやらせることもよくある。
提示された予算と、テストの出来具合からクライアント側が最終的な判断をする。
これは一般的な方法であり、これ以外にも知り合いの人から確保することもあるだろうし、一度関係を持った監督やスーパーバイザーから、再度別の映画の仕事を依頼されることもある。

良い仕事を確保するには、この仕事をとるときのやりとりにこつがあるのはおそらく日本も同じだろう。

一般的には、駆け出しの中小プロダクションは、このような単発的な映画のショットを手がけて経験をつんだりCMなどを作成して経験を積む。

(余談ですが、ハリウッドというと映画が注目を浴びますが、TVやCMの仕事も大量にあります。TV主流、CMやモーショングラフィック主流、映画主流などいろいろとプロダクションによって得意とする分野は違いますが、必ずしもマーケットは映画だけではありません。 そしてCMは質が問われる物が多く、映画もCMも質においては同等に扱われることも多いため、CMも映画も平行して行っているプロダクションは数多くあります。TVに関しては継続して発生することが多いため、それ専用のチームを作る事が多いようです。)



これはほぼ個人のアーティストと同じ流れだが、こうやって作った作品でそのプロダクションの得意とするスキルを見せる事ができる。
もし、将来増えてきそうな仕事の傾向をすばやく見抜き、それに関連する仕事をはやくから受注していくことができれば、将来への布石となるでしょう。
そのためには有能な営業能力を持った人が必要である。
自分は、詳しくないのですがおそらく、それはプロデューサー(映画のプロデューサーのことではなく、各プロダクションのCGやVFXプロデューサーのこと)の役割でしょう。


日本でハリウッドの大作映画を受注するには、大体このステップを踏んで、ハリウッド界での信頼を徐々に確立していくことが多いように思います。
どんなものを作るかによって、そのステップの一つ一つはおおきくなることもあるだろうし、小さいままになるかもしれません。
仕事の選び方がうまいプロダクションは、4~5年で数倍以上に大きくなっています。
ようするに会社の成長と、アーティストにとってやりがいのある仕事がとれるかどうかは、プロデューサーに掛かっているのかもしれません。


理想的には現地の経験あるプロデューサーやスーパーバイザーを雇い、現地のアーティストと日本からのアーティストをとりまぜたハリウッドの支部を作り、最初はそこをメインに仕事をまわし、日本は、それのサポートをしていくような形にするといいのかもしれませんが、あいにく経験がないので実際の所、どうすれば良いのかはわかりません。

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ハリウッドのVFXプロダクションのパイプラインは、プロダクションの規模により以下のように分けられると思います。

●大規模~中規模:独自のソフトや、プラグインの研究・開発を行い、他ではまねできない作品を作る。
●中規模~小規模:小規模予算で対応できるソフト開発や、独自のプラグイン開発。それにより作業効率の改善を図る。
●小規模~個人:主に市販ソフト用のスクリプトで作業改善を図る。

日本のプロダクションはここの中規模~個人までの間にふくまれると思います。

大規模のパイプラインがそのまま導入できれば理想的ですが、大量の仕事が継続して受注できなければ維持できません。

中小規模のプロダクションのパイプラインは日本の大手プロダクションと非常に制作環境(ハードウエア、ソフトウエアに関して)が似ているのではないかと思います。
小規模においては、全世界共通で中国ではこの手のものが一番多いと思われます。


もし、日本に大きなVFXプロダクションをいきなり設立するのがむずかしいのなら、中小規模のプロダクションからはじめ、経験を積み、徐々に大きな仕事を得られるようにすればよいかもしれません。


日本の映画は低予算といわれていますが、過去に1億3700万ドル(157億円)かけたアニメーションがありました。
スクエアUSA制作「ファイナルファンタジー(2001年)」です。実際にはCGプロダクションを新規にハワイへ設立したので、純粋な制作費とはいえないと思いますが、それでも大予算であったことには違いありません。
そのアニメーションの技術は、当時としてはずばぬけており、いまみてもすばらしいものです。
ポーラ・エクスプレスや、クリスマスキャロルは、技術的な面をみると、この映画の延長線上にあるといえるかもしれません。

あいにく、映画としては失敗に終り、プロダクションの閉鎖へつながりました。
これは日本人主導で、ハリウッドのアニメ・プロダクションに近いものを設立した唯一の例だと思います。
もし成功して、次々と作品をつくることができたら、日本でハリウッド映画を作成するパイプラインが構築できていたかもしれません。



アニメーションということで見てみると同時期に「シュレック」が公開され成功しています。
そしてそれ以降もいろいろなアニメーションが作られていますが、ハリウッドではいずれも成功しています。

シュレック(2001年):6000万ドル
シュレック2(2004年):7500万ドル
シュレック3(2007年):1億6000万ドル
ポーラ・エクスプレス(2004年):1億6500万ドル
クリスマス・キャロル(2009年):2億ドル

いずれも、脚本などの部分がすぐれており、世界規模のマーケットを視野に入れた製作で成功していると思われます。

経産省で一番の焦点となるのはここではないかと推測します。
ハリウッドのVFXを日本で作成することで、個々のアーティストやスーパーバイザーのレイアウト、アニメーション(動き)、色、質感、等々を詰めていくことに関してはノウハウが得られるでしょう。
これは日本映画のVFX作業や、アニメーションにも生かせるでしょう。
ちょとしたことが、国際市場にのせる作品をつくるのに役立つことがあるかもしれません。

しかしながら、一本の映画を製作する上での総プロデュースや、監督のノウハウは、思ったほど得られないかもしれません。というのが小さな仕事では、それらのトップレベルの人との接触はほとんどないと考えられるからです。
かなりの大きな仕事、たとえば一本のVFXほぼ丸ごととかを受注できれば、監督や総プロデューサーとの接触があり、彼らの活動に触れることができるかもしれません。そうすれば、仕事を通して、ある程度のノウハウを吸収することはできるかもしれません。

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