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2010年6月9日水曜日

タイム・スライス


マトリックスで一躍有名になったタイムスライス(バレット・タイム)、この映画では全体がスローモーションで動く中、カメラだけは現実の時間の中にいるかのように動きます。


Twitterで
銀行強盗のシーンを静止しているのを、カメラがズズ~っと進んでいくムービーってどれでしたっけ?」というつぶやきがありました。

もしかしてCSIのオープニングかな?と思ったのですが、これは銀行強盗ではないし。

このシーンのメイキングはこちら


でも確かにピエロの覆面をかぶったのをどこかで見たことがあるぞと考えてたんですが、どうしても出てこない。
ソードフィッシュかなと思ったのですが、あれは静止してないし。


後で、教えていただいたのですが、PhilipsのCMでした。
Making


この手の映像って最近、多いですね。
しかし、ならべて見ると圧巻ですw
もう一つ自分の好きな映像として、以前紹介したこの「Splitting the Atom」も再度掲載しておきます。
Massive Attack-Splitting the Atom-directed by Edouard Salier from edouard salier on Vimeo.



この手の手の映像ってもうかなり頻繁に見かけますが、何度見てもかっこいいですね。
個人的に唯一の外れは、東芝のコマーシャル。

メイキング映像
 通常のタイムスライスとは差別化したかったのか「タイムスカルプチャー」と自称してましたが、技法的には少し工夫してはいるもののビデオを使っただけだし、それほど魅力は感じませんでした。
確かに手間はかかってるんですが、題材や見せ方がまずかったのかもしれませんね。



さてさて、そんないきさつで、「タイムスライス」が気になったのでしらべてみました。



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映画でのタイムスライス
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タイムスライスもしくはバレットタイムと呼ばれるこの技法がはじめてつかわれたのは
Zotz(1962)とWiki(英語)には書かれています。
このシーンは役者は普通ですが、弾丸だけがゆっくり飛んでいくというショットです。
この後、屋上から飛び降りて着地寸前に役者だけが速度がゆっくりになり回転して無事着地というショットがあります。

カメラは固定だし、今のバレットタイムのイメージとずいぶん違うものですが、現実の速度で動くものと、スローモーションが一つのショットの中に共存しているという点は今も同じです。

しかし屋上でのやりとりというのはマトリックスに通じるものがありますね。
マトリックスのこのシーンの設定はオマージュなのでしょうか?


マトリックスで有名になりましたが、前年の映画ロストインスーペース(1998)でも使われていました。
太陽に墜落しそうになったところをハイパードライブを使ったワープで切り抜けるシーンですね。



この技法が大ブレイクしたのは、翌年の1999年公開のマトリックス以降ですね。
実際のところ、本当はマトリックス以前にも似たような技法はもちいられていたのですが、マトリックスで爆発的人気となり、いろいろなところで使われるようになりました。

そ映画はもちろんのこと、CMやTVでもこの技法がどんどん使われるようになり、効果的なもの、ただ奇をてらっただけのものなどいろいろな映が作られ、最近は、すっかり定着した感じがあります。




マトリックスからもう10年もたつのに、まだまだ新しいタイムスライスの映像がどんどん作られています。

Matrix(Youtube)


メイキング画像。(初期のテスト映像もあり)

この映像にでているのがマトリックスのバレットタイムショットを作り上げたジョンゲイタ。

ちなみに以下は、マトリックスで彼と一緒に働いたプロデューサーから直接聞いた話。
ある日の会議で4~5人のVFXプロデューサーとスーパーバイザーが集められ、エフェクトのアイデアを話し始めたのだが、誰も理解できなかった。あまりにも何を言っているのかわからなくて、誰も突っ込みを入れられなかったとか
会議が終わりジョン・ゲイタが去った後で、「で、どういうこと?」「さぁ??」とみんなで顔を見合わせたとかw。
それは彼の発想がすごいのもあるのでしょうけど、自分の世界にはまりすぎな上に、説明下手なのが原因だったらしいです。 そんなわけで、仕事はしづらかったようですw

以下の映像はマトリックスのバレットタイムシーンの加工前映像。
スティルカメラでとられた映像をつなげただけのものです。


見るとわかりますが、かなり厳密にカメラを設置しているにもかかわらずかなりガタガタしてます。
微妙にここのカメラの角度、位置は違っていますし0.0001度の違いでも、被写体までの距離によっては一度以上の角度になることもあるでしょう。
また、レンズのディストーションも同じメーカーの同じレンズでも厳密には異なりますので、きっちりとスムースに仕上げるには撮影後の加工が必要です。

以前これと同じ手法で撮影された低予算映画をやったことがありますが、このガタガタを修正するのは(自分がやったわけではないのですが)かなりきついです。私たちは、最終的にモーションブラーでごまかすしかなったという感じですね。
マトリックスでは、この処理にもかなりの時間とお金がかけらたこととおもいます。

そんなわけで、カメラの設置もかなり時間がかかり、設営のために長時間、撮影場所を借りておく必要があるので、お金もかかります。

そのせいか、マトリックス二作目では、フルCGキャラを使うようになりましたね。
また、最近はシステムもスチルカメラからビデオカメラに変わましたし、工夫を凝らして一台のカメラで、それらしく見せるものも現れました。
要は映像の技法であって、映像の製作技法でないのでやり方はどんな方法をとってもいいわけですね。


いくつか整理してみると3つの技法があります。
1)カメラを複数台並べる方法(正攻法ともいえますね)
2)3DCGを使って、バーチャル世界を作る方法
3)役者など見えるものをすべて固定して動かないようにして、普通に撮影する。


特にこの3つ目は、TVでも結構使われています。
日本でも人気の「ヒーローズ」でもヒロの時間を止めるシーンなどで使われているのはこの技法ですね。
低予算でも、十分効果的に撮影できます。



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TVでのタイムスライス
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TVでタイムスライスをよく使っている代表作品がアメリカの人気TVシリーズ「Smallville」
日本では「ヤング・スーパーマン」として公開されています。

Smallvilleにはいくつかの時間の早さによる設定があります。

スーパー・スピード:
クラークの超高速の動きを若干スローモーション気味にしてみせます。
ようするにスーパーマンよりも速い動きですね。
このショットでは、マトリックスのバレットのような衝撃波が体の周りから発生しています。
周りは当然、ほとんど停止状態。

クラーク タイム(クラークスピード):

超高速移動中のクラークを通常の時間経過として見せる方法。
周りは、停止もしくは、ゆっくりと動いています。
クラークが走っているときにカメラが一緒に移動すると、周りはかなり高速で移動して見えます。
なぜクラークタイムというかというと、スーパーマンは「弾丸よりも速い」から、バレットタイムでは撮影できないんですね。

バレットタイム:
弾丸の速度に合わせた時間経過。マトリックスなどと同じ。
弾丸がゆっくりと移動していきます。当然クラークはそれよりも速く動きます。

ノーマルスピード:
普通のスピードです。24fps
移動するクラークは線状に流れて見えます。

結構、不自然な形で、人がじっとしていたり、ものが空中に浮いていたり、鳩が停止していたりするのですが、これはいくつかの手段を使っています。
しかしながら一つのカットで使用するカメラは一台だけです。





(リグ):不自然な形で人が静止していたり物が浮かんでいるのは、支えとなるリグやワイヤーを使っているからです。コンプで消します。
(CG):空中に浮遊する物体はこちらの方法がとられることもあります。動物や液体、弾丸、煙などはほぼCGですね。特に動物などの静止させられないものを加えていると、周りが静止しているのに真実みがでます。

そんなに長時間人がじっとしていられるのか?ということですが見たまんまです。
たま~に、風で髪がさらっと動いたり、手が小さく震えていたり、まぶたがぴくぴくすることもありますが、よほど注意してみてないとわかりませんw
TVではこれで十分なクオリティーです。



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バレットタイム vs タイムスライス
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それにしても、「バレットタイム」と「タイムスライス」は同義で使われていますが、厳密には
「バレットタイム」=「弾丸時間」ようするにスローモーション。(各カメラのシャッターのタイミングが少しづつずれている)
「タイムスライス」=時間軸でスライスしたもの、ようするに時間は止まっている。(シャッターのタイミングは同じ)

ではないかなと思うのですがどうでしょうか?
まぁスライスするのを切断面と考えずにチーズをスライスするように若干の厚みがあると考えれば、スローモーションであっても良いかもしれません。
後述するタイムスライスの発明者も、スローモーションの動きを残していますからあまりこだわる必要はなさそうですね。

どちらも共通するのは、その時間の中でカメラが空間をも自由に移動できると言うことですね。
ただほかの物が動く速度よりも速くPV(Point of View:一人称視点)で移動するので、自分が映像世界の中に入り込んだ感じがしますね。
そして、その空間にあるものをより注意深く細部までみることができるように感じます。

これを「より説明的」な映像ととらえて良いのかどうかはわかりませんが、このエントリの冒頭で紹介したタイムスライス映像は、
台詞が一切ないのにストーリーが語られています。

唯一タイムスカルプチャーを名乗る東芝のCMはまるでこのあたりの意味をなしていません。
純粋に技術的な実験と考えるべきかもしれませんね。


さて、スローモーションの技法も普通では見えないスピードの物を見せることができ、時間の自由度をあたえました。
タイムスライスはこれに空間の自由度をプラスし、時間と空間を超えた撮影が可能となりました。

そのためスローモーションと親和性が高いのか両方の技法をとりまぜて境目が曖昧な映像も最近はふえましたね。

映画「300」は、スローモーションの使い方がうまい例ですが、通常のスピードからスローモーションの速度への移り変わりがスムースで、印象的でした。


タイム・スライスの是非について2chに良い説明がありました。

12 名前: ユキヒコ 投稿日: 2000/07/03(月) 15:07
    映像文法的にまったく問題無いと思いますけれど‥‥
    そもそも、静止しているわけじゃないし。

    タイム・スライスは、みんなが映画でやりたがっていたけれど、
    文法的に、どう取り入れて良いのか分からなかった技法。
    『ロスト・イン・スペース』が、ワープの瞬間という形でまず使った。
    でも、それは、PVでみる使い方と、なんら変わらなかった。
    (技法だけで、文法ではなかった)
    『マトリクス』では、あの兄弟が、
    「認識のスピード」としてなら、表現として使える事を発見した。
    だから、それをバレット・タイムとして、取り入れた。
    それだけのこと。文法としても成立している。

    あと、視点と言う事なら、誰のものでもない視点というのは、存在する。
    (古い言葉で言えば、神の視点となっちゃうかもしれない。
    要するに、「ケレン」のための視点と言えばいいのかな。
    だから、技法があって、意味があとからついて来ている以上、
    他の方が書いてらっしゃる、使いたかっただけって認識は正しいと思う)
    そんな感じ。では!






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起源
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さて、マルチカメラを使ったタイムスライスの技法は、マトリックス以前から存在していたというのは聞いたことがある人もいると思いますが、それが誰だったのかやっとわかりました。

ティム・マクミラン(tim_macmillan)という人で、1980年にタイムスライスの技法を作り上げ、後に「タイムスライス社」を創設しました。
タイムスライス社はその名の通りタイムスライス映像専門のプロダクションです。
ぜひ、会社のホームページを見てください。タイムスライス映像がいっぱいありますよ。

さて、以下が彼が作成した初期の作品です。
マトリックスが1999年ですから、20年近く前にすでにその技術を確立していたと言うことですね。

Tim Macmillan Early Work 1980 - 1994 from Time-Slice® Films on Vimeo.


「マトリックス」とティム・マクミランとの関連はわかりません。
ご存じの方は是非教えてください。

最後にもう一つ、この映像の最後の方にイルカの映像がでてきますが、これもすごいですね。
Supernatural from Time-Slice® Films on Vimeo.





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おまけ 自作タイムスライス
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少し前には、テレビのスポーツの中継などでもつかわれたようですが、どんどん身近になり、いまでは個人の映像製作でも浸透してきているようです。

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