日本でハリウッドVFXを制作! 「経産省アイディアボックス」 結果:  
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2010年6月11日金曜日

ライン作業に学ぶ

一番最初に就職した会社は、某車メーカーの内装部品やバンパーを作成する会社で、従業員はすべてあわせると700人を超える製造会社であった。

巨大な射出成形機が5~6台ならび、インパネや内装部品を組み立てるラインが広い敷地の至る所にある。
小型のフォークリフトが通路を行き交い、プレス機が動く音が聞こえてくる。
休憩時間は、段ボール箱を強いて腰掛けてジュースを飲む。
そんな感じの工場で、将来、自社の技術を生かして自社製品を売り出そうという魂胆で私は工業デザイナーとして雇われ、開発部門に属することになった。

しかしながら、開発といっても親会社からの要望にあう品質を作り上げるために、いろいろと調査をするだけで、自社製品の開発など到底すぐには望めない環境であった。
しかも、「教育実習」と称して現場のラインへほおりこまれた。



現場作業者との違いは、1ヶ月ほどで、現場をローテーションしていく。
目的としては、会社の作業全体を身をもって知ると言うこと、すぐには使い物にならない新人なので、人手が足りない現場の足しにすることの二点がある。

現場での作業では、様々な人がいてそんな人たちを観察していて人生の勉強になったと思う。
高卒に偏見はもっていないつもりだが、一般的に言われるように、高卒や中卒の人がたくさんいる。
大学出身者は地方大学でも、ここではエリート候補で、現場管理側の仕事に就く。
(現場管理とは、現場作業を効率よくできるようにライン設計や、日々の機会の問題を主に解決する人である)

そんな現場で働く人はほんとうにいろいろだ。

年齢を問わず以下のようなタイプの人がいた。

自分の仕事に誇りを持っている人
自分に自信がない人
仲の良い友達としか話さない人
趣味の話ばかりする人
にこにこして人が良さそうな感じで話しかけてくる班長(実は残業のお願い)
上司にヘコヘコする管理職群
親がその会社のお偉いさんというだけで、威張っている人
ぶつぶつ独り言を言ってる人。
指を切ってしまったのに、作業が止められないからと洗浄用有機溶剤の中に手袋なしで手を突っ込んで部品をとる人。
文句ばかり言う人
黙々と仕事を続けるまじめな人
妙に他人行儀な人
さっぱりしている職人みたいな人
優しいが、ほかとは孤立している人
つっけんどんな人
高飛車な人
表と裏の差がはげしい人


管理職側でも現場側でも、不思議と何らかの形でコミュニケーションが普通な感じがしなかった。
おそらく本当に普通だと思える人は、数人だけだったと思う。

それは当時学校を卒業したばかりだったからかもしれない、今見れば違うのかもしれない。
しかし、何かゆがんだ環境だったように感じていた。

そのおかげか、後に「こんな人がいる」と文章で書かれていても大体、イメージがわくようになったw



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流れ作業
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さて、こんな会社でも勉強になったことが一つある。
それは今でも、使うといいかもしれないなと思うことがよくある。



それが「QC(品質管理)」である。


現場管理の人は毎日、品質管理のために働いているのだが、現場でしか気がつかない小さな問題というのはたくさんある。
それを自ら気がつき、自ら解決させる方向へ持って行き現場の士気をあげていた。


よりよい理解のために、まず、現場作業という物がどういうものかを説明します。

工場では、
1.部品をとり
2.作業台(ベルトコンベアのように自動的に横へ移動していく)に置き
3.必要な部品を取り付け
4.パレット(収納コンテナ)に納める

という流れで作業を行います。

たとえば、インパネ(車のメーターやダッシュボード周り)は電装品や空調設備のパイプなど様々な部品を組み付ける必要があり、部品の取り付け作業は最初から最後まで見ると長時間で、いろいろな組み立て知識の必要な作業となります。

ライン作業では、取り付ける部品を、いくつかのステップにわけ、複数の人が順番に決められたステップの作業だけを行います。
それぞれの作業は簡単な手順でまとめられています。





最初の人は
1.プラスチックのインパネ骨子をとり作業台に置く。
2.プラスチックの欠陥がないかチェックし、外皮をかぶせる。
3.クリップナットを数個決められた場所に取り付ける。

クリップナットとは、以下の写真のようなもので、特定の場所に押し込むだけで取り付けられるナットである。
これにつかうネジは木ねじのような先がとがったネジを使う。
4.自分の作業が全て終わったことを油性の色鉛筆で見えないところ(所定の位置)にチェックを入れる。


次の人は
1.クリップナットにネジを差し
2.エアドライバ(空気で回るドライバ)でネジを締める。
3.外皮の外から空調調整用のフィンのパーツを押し込んで取り付ける。
4.自分の作業が全て終わったことを油性の色鉛筆で見えないところ(所定の位置)にチェックを入れる。



三番目の人は、
1.インパネが取り付けられている台を回転させひっくり返す。
2.部品が車の中でゆれないようにするスポンジ状のブロック(シール付き)を特定の箇所に貼り付ける。
3.電装のワイヤーを這わせて固定する。
4.自分の作業が全て終わったことを油性の色鉛筆で見えないところ(所定の位置)にチェックを入れる。



4番目の人は
1.空調設備のダクトパーツを据え、ネジで取り付ける。
2.自分の作業が全て終わったことを油性の色鉛筆で見えないところ(所定の位置)にチェックを入れる。



・・・・・という具合で完成まで作業が続いてく。
一つの作業は数秒から数十秒であり、その間作業台は目の前を右から左へゆっくりと流れていく。

これが流れ作業と呼ばれる所以である。






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ラインの設計
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流れ作業は、通常は、一連の作業を一列に並んで行えるようにしてあり、その設備はラインと呼ばれる。

このライン作業の効率の良さには正直関心した。

ライン生産方式では、作業員一人一人の仕事は多くとも数点の部品の組み付けだけであり、職人的な技量は求められず、全くの素人でも数時間のOJTを行えば事足りる。均一の工業製品を安価に大量生産するのに適した製造工程であり、作業員の熟度に合わせてベルトコンベアのスピードを上げてゆけば生産性は高まる。(Wikipedia)


ライン作業車は、自分が関わっている、ごく一部の知識しか持ってない。
しかし、そういう人が集まって、自動車、電化製品、最近ではコンピューターが作られているのである。

そう、車を設計し、ラインを設計する人は知識や知恵を必要とするが、
実際に作っている人は、何の専門知識もなく次の休みにどこへ釣りに行こうかと考えているおっちゃんや、どこの野菜が安いかが心配なおばちゃんが、最先端の自動車を作っているのである。

そして、新人でも、数分から数時間でその作業をマスターすることができる。



これは当時でも、すごいなと思った。

もう一つのすばらしい点は時間である。
一つ一つの作業時間は長くて数十秒だ。
これらが平行して行われることで時間が非常に短縮される。
実際に自動車工場では、数十秒に一台の新車が生み出される。
(最初の一台がラインを流れていくまでには時間はかかるがいったん全ての人に作業が行き渡れば、速くなる。)



参照:クルマやバイクができるまで(Honda)


このすばらしいラインの設計には、非常に手間がかけられ、綿密な計算がされている。
たとえばビス一本、テープ1cmにさえ値段が決められているのは想像がつくかもしれない。
しかし
●手を伸ばしてエアドライバを引き寄せる。
●ネジを締める
そいういった作業、ひとつひとつが細かに分類され、それぞれの作業時間がコンマ秒単位で、そして0.1銭単位で値段がつけられている。

そういう工程分析から、全体の作業計画から、一人一人の作業時間がわりだされベルトコンベアのスピードが決められる。

また部品を取り出すために取り出しやすい、位置や高さ。
コンベアに必要があるものは、それを据え付ける台の形状や高さまで、
最低限の労力と、最高の効率をめざして作られている。

そして、こういったすべての過程において、傷を一切つけず、行えるように配慮もされている。
また全ての部品棚が色分けされ、位置が決められ、なにがどこにあるかなどがはっきりとわかるようにしてある。


エアドライバがぶら下がっているのを写真で見たことがあると思うが、
●不要なときは元の位置に戻るように巻き戻しプーリーに取り付けてあり、戻る速度も速すぎず遅すぎず調整。
●作業者がとりやすく、すぐに作業に移れる場所
●製品をコンベアに載せたり下ろしたりするときに、まちがってぶつけて傷がつかない場所
動線を妨げない工夫)

などすべてにおいて最高の品質の物を、速く、しかも作業者の負担にならないように、細部に至るまで考えられている。


前述のみなれないクリップナットの形状もこれで理解できるだろう。
普通の六角ナットに比べると以下のような利点がある。
●片手で固定できる。(六角ナットはナットとビスを押さえる必要がある)
●部品単価が安い。(金属板をプレスするだけで作れる)
●穴にネジを似合わせるが簡単。(クリップナットは、木ねじなので先がとがっているので位置合わせは簡単)

ただ、クリップナット一つとっても、強度やサイズ、使いやすさがあり、他社の車を買い取り、隅々まで分解して、どんな技術を使っているのかを研究して、よりやすくよりやすい物を作る工夫を日々続けている。

絶えず、安い方法、効率的な方法を追い求め、日本の製造工場は世界一になった。
そして、その方法を突き詰めた結果、人件費の安い中国などの第三国での生産であり、そのやり方をマスターした中国は日本(日本だけではないが)から離れ自分たちの製品を作るようになったのである。
その結果、今や世界一の成長国家である。


話がそれたが、ラインの設計には作業者の安全も考えられている。
たとえば人が通る場所は緑色のペンキと白い縁取りの通路になっていたり、出っ張ったところや鉄筋の角、作業台の角にはスポンジ状のシートが貼り付けられている。
私の工場では、自動車本体は取り扱っていなかったが本社の組み立て工場を見学したことはある。
下の動画のように、溶接などはほぼすべてがロボットにより自動化されている。
これは品質、安全面、速度のすべての面で利点があるからである。







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QC (クオリティー・コントロール)
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これだけ綿密に計画され設計されるラインであるが、それでも実際に作業しているうちに欠点が明るみに出たり、もっと効率を上げる方法が見つかったりする。
それは、多数の現場を管理している現場管理者よりも、一つの場所でずっと働いている現場作業者の方が気がつきやすい。

そこでその「気づき」を、逃さないようにして、現場作業者自らが自分の現場での品質を向上させるための努力をするように考えられたのがQCと呼ばれる手法である。

これは、自らの環境に対して自ら働きかけて環境を改善できるとあって、現場作業者もやる気を持って取り組んでいた。


うちの会社では、品質管理部門の人が現場の人を対象に、定期的にQCで使う技法の説明会をしていた。

使われるのは、いくつかのグラフと、特性要因図、パレート図など、「QC七つ道具」と呼ばれる手法である。

ソフトウエア管理にも使われているらしくそれを説明しているサイトがあったのでリンクを掲載しておきます。
「QC七つ道具」リンク:
暮らしに役立つQC七つ道具(1) ―― 層別:「分ける」ことは「分かる」こと
暮らしに役立つQC七つ道具(2) ―― チェック・シート:事件は「現場」で起きている
暮らしに役立つQC七つ道具(3) ―― パレート図:「何」が「重要」なのか?
暮らしに役立つQC七つ道具(4) ―― ヒストグラム:「全体」の「傾向」をつかむ
暮らしに役立つQC七つ道具(5) ―― 散布図:「傾向」を「推理」する
暮らしに役立つQC七つ道具(6) ―― 特性要因図:「原因」を「整理」する
暮らしに役立つQC七つ道具(7) ―― 管理図:「傾向」を「監視」する

暮らしに役立つ新QC七つ道具 (1) ―― 親和図 : 「似たものどうし」を「整理」する
暮らしに役立つ新QC七つ道具 (2) ―― マトリックス図法:「行列」で「整理」する
暮らしに役立つ新QC七つ道具 (3) ―― マトリックス・データ解析法:「要素間関係」を「要約」する
暮らしに役立つ新QC七つ道具(4) ―― 連関図法:「関連」を「整理」する
暮らしに役立つ新QC七つ道具(5) ―― 系統図法:「方法」を「整理」する
暮らしに役立つ新QC七つ道具(6) ―― 連関図法:作業間の「関係」を「整理」する
暮らしに役立つ新QC七つ道具(7) ―― PDPC:「リスク」を「整理」する
暮らしに役立つ新QC七つ道具(8,最終回) ―― アロー・ダイヤグラム法:「時間」を「整理」する


実際の作業の一例を説明すると、各作業者が普段気になっていることを、発言してまとめていきます。
このブレインストーミングの段階で、他社を批判しないという原則が徹底して守られているのは感心しました。

さてそれらをもとに、特性要因図を作り、状況から統計を取りグラフにします。

参照1:ブログFastMBA
参照2:品質改善.com


たとえば、「傷がついている製品の数が全体の製品に対していくつぐらいあるか?」というグラフや
部品を取りに行く回数や、部品の補充にかかる時間をそれぞれの人ごとに統計を取ったりします。

そんな作業を進めていくうちに、改善策のアイデアが出てきますので、それを試してみます。
たとえば、
●部品をとりやすいように10cm棚をさげる。
●通路にあった、部品棚を移動する。
●製品を入れるケースに使っていないときはふたをしてゴミが入らないようにする。
などです。

それにより、問題点がどのように改善されるたかという統計をまた取ります。

これを、大きな物から小さな物まで適用していくわけですね。
中には品質管理部の人もびっくりするような大改善がされたりすることもあり、まさに「3人寄れば文殊の知恵」です。



こういった現場を経験したためか?!その後はどんな仕事についても、非効率的な部分、改善すべき部分が気になるようになりました。
以外なのは、残念なのは、どんな職場でも、改善点に気がついていても、文句ばかり言って改善しようともしない 人たちが多かったことです。
もし、QCのツールの一部でも知っていれば、自分たちの環境を自分たちで変えていけたかもしれないのにと残念な気がしました。

幸いQCツールはそのままソフトウエア開発に使われてきています。
これをCGの現場に適用するのもそれほど難しくないかもしれませんね。



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欠点
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さて、ライン作業方式の欠点は「単調作業」ということにつきますが、これはCGのパイプラインにも言えるようです。
自分はまだそこまでのCGパイプラインで作業をしたことがないのでわかりませんが、聞く話によるとそのようです。


製造現場のライン作業とCGと違う点をあげれば、一生懸命やっていれば、半日もすれば熟練して作業時間が余るほどになる。
幸いにしてライン全体の作業者のバランスを保つためにコンベアのスピードがアップされることはほとんどないので、多少ゆとりができる。
しかし、すぐに次の部品がながれてくるので、その場を離れることはできないし、本などを読むほどの時間もない。
ゆっくり流れるコンベアをじっとながめているだけなのだ。

中途半端に何もすることがないというのは、なれないと結構苦しい。
何より単調作業は、何も考えてはいけない。
今やっていることに意味を見いだそうとすると苦痛になるか、絶望的になるかだけである。

でもCGは手を休めることができず、その「単調作業をずっと続けなくてはならない」のだから、それもまた苦痛である。
製造現場ほどの単調さではないということが、せめてもの救いか。


現場作業中に何かを考えるなら、目の前とは違うことを考えるのがいいと思い、自分は作業中は考えをまとめ、ちょっと時間が空いたときにメモするようにしていた。
おかげで人生のことや将来のことなどたっぷり考えることができたうw


もう一つ、有効で生産的なことがある。
目の前にある製品や作業工程をどのように設計されているのか、どのように作られているのかを考えることである。
CGで言えば、いろいろなプラグインや、ツールの作り方や機能を分析することに似ている。


さて、ここまで細かな分析がされ、全ての統計が取られているのが工場の流れ作業である。
CGの作業は、ここまでの分析はされていないように感じる。
それはCGの進歩はめざましく、いくら分析してもすぐに役に立たないデータになってしまうからかもしれない。


しかし、こういった組み立てラインから、CGのパイプライン構築に生かせる知恵があるのではないかと思って、今回のエントリを書いてみました。

大なり小なり、パイプラインの構築は不可欠であり、これから必要になってくるでしょう。
そして、非人間的な単調作業が増えたときに、その作業とそこに意味を見いだせるような心の姿勢が必要となるのかもしれませんし、
それは仕事と割り切って、意味のあるCG製作は自分で趣味的にやっていく必要が出てくるのかもしれません。

すぐれたパイプラインは、驚くほど効率的になるのかもしれませんが、一方では非人間的な作業を増やすことになるのでしょう。
そのあたりのバランスをとる必要があるのか?それとも新たな道を見つけ出す必要があるのか?

こういったことも考える必要はあるのかなと思いました。




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最後に
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余談ですが、この会社は約一年でやめました。
原因は、いろいろとあるのですがそこにいても工業デザインの仕事はできないと思ったのと、将来性を感じられなかったのが原因です。

実際、「教育実習」は半年の予定でしたが、新車の発表を控え、忙しくなったのでもう半年が上乗せされました。


このままでは、いかんと思い会社を辞めましたが、この後、約1年いろいろと悩むところもあり、今で言う引きこもりの生活をしました。

ひきこもってはいましたが、以前紹介した横浜のデザイン事務所で短期ながら仕事をしたり、通信教育で立体製図の勉強をしていたので、今で言うニートよりは多少ましかと思いますw
そして、そのときの通信教育の先生の紹介で、工業イラストの会社で働くことになりました。

映画が好きでしたが、まさか自分がアメリカで働くことになるとは夢にも思っていなかった時代で、CGはまだまだ高価な時代でした。


さて、明日は子供のプレスクールの卒業式なので、もう寝ます。

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