日本でハリウッドVFXを制作! 「経産省アイディアボックス」 結果:  
●まとめエントリはこちら ●FAQ ●お問い合わせは左のメールフォームから

2010年1月1日金曜日

税優遇措置とは(1)

新年早々、重い話です。
すみません。
どうしても将来の事を考えるとき、現状を出来るだけ正確に知っておく必要があると思い、いろいろ調べてみました。


----------------------------------------
アメリカ国外へどんどんと流れ出ていく、VFXの仕事。

オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、イギリス、インド、中国。
特にカナダ、イギリスにおいては、ロトスコープやトラッキングという下準備的な段階ではなく、ショット全体を引き受け、ハリウッドのVFXプロダクションと対等の仕事をこなしています。

これについては、様々なところで語られているように、その裏に両国の税優遇措置や製作支援措置(制作費支援や、投資の優遇措置、その他)があります。

マトリックス以来、オーストラリアやニュージーランドでの撮影やポスプロが、よく知られるようになりましたが、そこにもやはり同じような理由があるのかもしれません。


----------------------------------------
では、実際に税優遇措置とはどんな物で、実際これらの政府支援はどれほどの効果を上げる物なのでしょうか?

私は経済的なことには無頓着なのでこういった話は苦手なんですが、出来るだけ調べてみました。
できるだけ具体的な数値で感覚をつかめるようにしたつもりですが、注目すべきポイント、計上方法、実際の金額などは、特に正式なものに従ったのではなく、すべて自分の推測と想像の域をでないことを前もってお断りしておきます。


まず以下のページですが、これはゲーム業界に関する事です。
一見VFX業界には関係なさそうですが、強力なカナダ政府の援助の一端を見ることが出来ます。

GAMESPOT「日米に迫るカナダゲーム産業--英国を凌ぐ第3の勢力になった理由を探る

たとえばオンタリオ州では、連邦税と州税の控除を組み合わせると100カナダドルのコストを44カナダドル未満に抑えることができる。

たとえば100万ドル(約1億円)の費用が必要だったとするとこれが44万ドル(約4400万円)ですむということですね。これはかなりすごいことです。

「オンタリオ・コンピュータ・アニメーションおよび特殊効果控除」制度では、コンピュータアニメーションと特殊効果の 制作に要した人件費の20%が還付対象とされる。

これはVFXに関することですね。
同じく人件費が100万ドルかかったとすると、その20万ドルには税金がかからない。
仮に税額が10%とすると、税額10万ドル(約1000万)のところが8万ドル(約800万)とういことになり、2万ドル(約200万)が浮くことになります。

公的支援はそれだけにとどまらず、アフターケアがカナダ方式の大きな部分を占めていると語る。
「企業から『弁護士を探したい』『オフィス用のスペースが欲しい』『ネットワークに接続したい』などの要望を受け付けて、行政の側で支援している。
(中略)
還付金制度や研究開発税制優遇措置などの制度の基礎を約30年前にスタートさせたことを挙げている。
(中略)
「英国は欧州連合の一員であり、・・(中略)・・しかしそれと同時に、国としての支援に制約が設けられていることも意味する。
私が現時点で理解しているところによれば、カナダモデルを採用できないのはそうした制約のためである」

また以下のレポートも参考になる。
これも同じくオンタリオ州に関するものです。
行政Ⅲ~充実の税額控除
行政の支援Ⅱ~豊富な支援プログラム


カナダ全般での優遇措置、税に関する説明としては以下のようなページもあります。
映画産業に関する優遇措置  (JETRO)
カナダの外資政策、会社設立、税制、優遇措置  (JETRO)

また以下のレポートを読むと、企業だけでなく個人に対する保険などのメリットも高いことがわかります。
日本にいるとなぜ保険などに、それほど注意を払う必要があるのか疑問に思うかもしれません。
アメリカに国民健康保険制度はなく、すべて民間保険ですが、その保障内容はひどく、マイケルムーアによって「シッコ」という映画が作られたほどです。
月々の保険料も、高額であり、保険が適用できないケースもあり、そのケース分類も複雑で、理解しずらい物です。
アメリカで破産する人の62%が医療費の請求からきているそうですが、そのうち72%は保険に入っているにもかかわらずです。(参照:お笑いニュースがオバマ保険を救う?
こちらで大病や大事故をしたら、よほどの高給取りでないアウトです。

カナダ オンタリオ:デジタルゲーム革命の最前線
税金がアメリカに比べて40%から60%も低いことも有利な条件になっています。
さらに、健康保健を加味すると、オンタリオではアメリカと同数の従業員を抱えていても、雇用者負担額が半分程度に抑えられます。
カナダとオンタリオには、アメリカにない国民医療保障制度があるからです。


カナダ政府の支援は、着々と効果を上げておりカナダ国内での映画・TV制作費は、2008年度前年比4%増です。(参照:J-Pitch

上記参照ページによると、そのほとんどが、
「ブリティッシュ・コロンビア州で製作された長編映画」
「その増加分のほとんどが、激増した外国語・海外製作の3億4,400万加ドル(約3億2800万米ドル)」
となっている。

ブリティッシュ・コロンビア州は、映画産業で有名なバンクーバーがあり、カナダのVFXスタジオの多くが、ここにあります。
ちなみに、District9で注目を浴び、急成長注したImage Engineもここにあります。

さて上記、J-Pitchのレポートによると、この1州で製作された作品だけで3億1,300万加ドル(約2億9800万米ドル)、内2億9,100万加ドル(約2億7700万米ドル)が長編映画ということです。
この3億ドルを日本円にすると約300億円、しかもこれは2008年度に計上された増加分です。

「District9」の総制作費は「3000万ドル」です。
ほぼすべてのVFXはカナダで行われたようですが、その費用はさらにその一部にすぎません。
仮に100万ドル(約1億円)がかけられたとしてもそれは上記の増加分のほんの一部です。
その金額には、撮影なども含まれていると考えても、それでもまだVFXの仕事がかなりの数含まれるであろう事は想像できます。
そのことから考えると、最近カナダのVFXプロダクションの名前を聞くことが多いのもうなずけます。


カナダでは、VFXに限らず映画制作全般に対する支援体制や資金援助体制が整っています。
国際共同製作の体制(J-Pitch)
資金援助の体制(J-Pitch)
いろいろとクリアすべき条件は多いものの、その作品がカナダ映画として認められればかなりの優遇措置が受けられます。


LAに住んでいると、町中でロケをしている場面によく出くわします。
大作映画に限らず、インディー映画、TV、CM、ミュージックビデオと様々なロケがあります。
大通りでも通行止めになっていることがしばしばあり、日本では考えられないような場所。
たとえばダウンタウン(東京のビル街のようなところ)でも、撮影のために通行止めにしてしまうことがあります。
撮影許可などの詳しいことはまったく知りませんが、日本よりはかなり撮影許可は下りやすいのではないかと思いました。

しかしながら、実際にあるTVプロデューサーから聞いた話ですが、LAでは撮影許可の条件が厳しく、クリアしなくてはいけないことがカナダに較べて多すぎるそうです。
カナダは
撮影隊:「撮影したいんだけど」
政府側:「どこで?」
撮影隊:「****で」
政府側:「OK、ついでにこっちはどう?」
ぐらいに簡単に話が進むそうです。
(まぁ誇張された話なので実際はそこまで単純ではないでしょうが)
しかしながらLAではいろいろな書類や証明書を提出して、話を進める必要があるそうです。
そういった理由からも、場所に特にこだわるのではなければ、TVはカナダでのロケが増えるそうです。

----------------------------------------
ここで映画にかけられる費用と、映画の規模についてざっと調べてみました。

タイトルの右にあるのが総制作費となるが、これはWikipediaをはじめとしてインターネットから得た物で、中には間違っているものもあるかもしれないので参考程度にしていただきたい。

そして、これらの制作費の大半は、監督とプロデューサー、そして主演俳優などにもっていかれ、その残りから撮影、セット、衣装、VFX、その他の予算が組まれます。
よってVFXに掛けられる費用は、その数分の一、場合によっては十分の一以下のこともあるかもしれません。

<1千万ドル=10億円、1億ドル=100億円という風に単純計算しています。>
2009年の映画
「アバター」:3億ドル
「2012」:2億ドル
「スタートレック」:1億5000万ドル
「ターミネーター4」:2億ドル
「トランスフォーマー: リベンジ」:2億ドル
「ハリー・ポッターと謎のプリンス」:2億ドル
「アイアンマン」:1億5000万ドル
「District9」:3000万ドル
「ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー」:5000万ドル

2009年のアニメ映画
「カールじいさんの空飛ぶ家」:1億7500万ドル
「クンフーパンダ」:1億3千万ドル
「ATOM」:6500万ドル
「くもりときどきミートボール」:一億ドル

その他比較用(過去の映画)
「ベンジャミン・バトン」(2008年):1億6000万ドル
「スパイダーマン3」(2007年):2億5800万ドル
「ダークナイト」(2008年):1億8500万ドル
「スターウォーズ Episode4」(1977年):1100万ドル
「スターウォーズ Episode3」(2005年):1億1300万ドル

日本と韓国の映画
「ヤッターマン」:20億円(2000万ドル)
「GOEMON」:15億円(1500万ドル)
「グッド・バッド・ウィアード」:174億ウォン(約1500万ドル)


----------------------------------------
カナダの政策は、これら大金の一部を国に取り込むことに成功し、国内の雇用も増加させています。
これはさらに将来のサービスの質を高めることにつながっています。

そしてハリウッドのVFX業界を脅かすまでに成長しています。

税優遇措置はまさに、「皮を切らせて骨を断つ」ですね。

税金免除によって回収できなくなる部分はありますが、国としての資産価値を高めており、将来の仕事をさらに呼び込み、それの繰り返しにより、それ以上の経済効果を上げていると思われます。

VFXだけみても、カナダでの製作の質も上がってきているので、これからは、あちらでの作業がもっと加速する可能性は高いでしょう。

実際にロンドンではそれが起こっています。
「ハリーポッター」を始め、2010年公開予定の「タイタンの戦い」「プリンスオブペルシャ」など

最近のVFXを多用する作品の多くにロンドンの会社が関わっています。
ロンドンはカナダより通貨が高いにもかかわらずです。

0 件のコメント:

コメントを投稿